螺旋階段3


 この世は、独眼竜伊達政宗の支配する世界になった。


 最後まで敵対していた武田の兵はこの日の本の最後の戦で全滅。

 捕虜として囚われていた武田の若虎の、その後消息は不明。


 そうして時間が経つにつれ、人々は戦のない世に慣れていき、過去の武将の存在など忘れていった。


「強情だな、アンタも」


 政宗はそう呟いて、こちらを相変わらず見ようともしない幸村を見つめていた。

 どれほど政宗が政務の間に顔を出しても、幸村はただ虚ろな瞳で壁を見つめたままだった。


 当初は精神を病んでしまったのかと不安を覚えていた政宗だったが、次第に、彼の対応は政宗に対する抵抗だと言う事が分かってきた。

 幸村の全てを奪ったのに、幸村自身は手放そうとはしない政宗へのささやかで頑なな抵抗。


 そんな不運の捕虜を、政宗はどこか眩しそうに見つめた。

 そんな姿でさえ、政宗に映る幸村は美しい。


 それが己を拒絶している姿だとしても、切なさと渇望の激情に駆られながらより一層に鮮やかに隻眼に映えるのだ。


「アンタが今していること全てが無駄だってこと、分かっているんだろ?」


 次第に厳しい口調になっていっていることを、政宗は気づかない。

 己を拒絶する幸村に盲目になればなるほど、思い通りにいかない彼に対して腹が立って仕方がない。


「アンタには、もう俺しかいないんだ」


 平和に慣れた世の中で、若虎の消息も噂されることも無くなっていった。

 幸村と関わりがあった武将達も、武田滅亡の知らせを聞いた時にすでにこの世にはいないだろうと諦めていた。

 幸村は閉鎖された空間の中で時代に置き去りにされていた。


 幸村自身も己の状況をわかっている筈だった。

 けれど、

「貴殿にすがってまで生きようとは思いませぬ」

 そう、冷たく答える幸村。


 思わずあがった政宗の腕を、小十郎はすばやく掴んだ。

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