螺旋階段2


「んだと」

 ピクリと、眉を動かす政宗。


「俺からのpresentが要らねぇだと?」

「要りませぬ」


 そう言い放つと、幸村は再び壁を見つめた。

 怒りで我を忘れそうになるのを深呼吸で必死に押えて、政宗は努めて穏やかな口調で話しかける。


「アンタが食べるっていうなら、その手錠をとってやるよ」

「……」

「手、痛いだろ?」


 しかし、幸村はそんな政宗の努力を鼻で哂った。

「政宗殿から与えられるものなど、何も要りませぬ」


 そして、皮肉に吐き捨てる。

「いっその事、毒で在りましたら口にしたものを」

「……だまれ」


「そうすれば、お館様や佐助、武田の皆の元に逝けたものを」

「! ……黙れって言ってんだろ?!」


 無理矢理に食べさせようとすれば唇を固く結んで拒絶する。

 舌打ちと共にフォークを投げだして、政宗は指で幸村の唇をこじ開けた。

 微かに開いた唇に、ケーキ含んだ己の唇をねじ込む。

 抵抗するが、手と足の自由のきかない幸村が政宗から逃れる術はなかった。


 己の唾液と共にケーキを飲み込ませて唇を離せば、今度は必死にせきこんで先ほど身体に入ったものを吐きだそうとする幸村の姿が目に飛び込んでくる。


 全身で己を拒絶している、愛しの人。


 毎日、毎朝、毎昼、毎夜続く光景が、未だに見慣れない。


 口の中に広がる甘さで気分が悪くなった。

 ムカムカとした胸を掴んで、政宗は自分のことを『ぱてぃしえ』だとか名乗った南蛮の男を思い出す。


 『甘いものが好きなら人ならば、これをプレゼントすれば心を開いてくれる』とカタコトの日本語で太鼓判を押す姿がおぼろげに浮かんで消えた。


 「即刻クビだ」と、まだ舌に広がる甘さに頭痛を起こしながら苦々しく呟いた。

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