How Wicked Ruler2


「……そうか。アイツは抵抗をやめねぇか」


 部下の知らせを聞きながら、隻眼の男――伊達政宗は気だるそうに唇を開いた。


「無駄な抵抗なのによくやるよな。これもあのオッサンの訓練の賜か?」

 そうどうでもよさそうに呟くと、彼は徳利のまま酒をあおる。


 着物を着崩し、しどけなく壁にもたれながら酒を煽る政宗は、月の光に当てられて男らしい色気を放っていた。

 ゴクゴクと喉仏が動き、口の端から酒が伝い、首まで線を作る。


 女性が見れば誰もがため息をつくその姿。


 しかし、彼の部屋には政宗しか居ない。



「どんなに抵抗しようと、無駄なことなのにな」


 そう呟きながら、月を見上げた。


 普段は太陽のように暑苦しいあの男が、この月の光に照らされればどのような一面を見せるのだろうかと考える。


 泣いて、喚いて、抵抗して。


 それを無理矢理に縛り付けて己の欲望のままに穢せられたのならと思うと、己の身体の中が熱くなっていった。


 どれほどこの身体が熱くなろうとも、あの男しかこの熱を冷ますことはできないのだ。


 嗚呼、たまらない。

 早く、アイツが欲しい。


 その為に、己は天下を手に入れたのだ。



「……俺は、欲しいものは必ず手に入れる」


 再び徳利に唇を押しつけて一気に呑むと、政宗は捕えた男が持っていた紅い鉢巻きに視線を落とした。


「それはアンタも例外じゃないんだぜ。真田、幸村」


 そう不敵に呟くと、政宗は所々血に汚れたその鉢巻きに唇を押しつけた。


 今まで感じたことのない渇望。


 今はまだあの男の片鱗を抱くことしかできないことが、もどかしくも、愛おしかった。

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