そらすそらさない9
一体いつからだったのだろう?
カレが己を見てくれなくなったのは。
カレが己の後ろのアイツを見ていたのは。
カレからの口づけを受ける度に。
カレが己の為に血を流してくれる度に。
カレはきつく瞼を閉じて、心を閉ざしていった。
どんな宝石よりも貴いカレの瞳が己を映さなくなり、禁断症状で己の心の空洞は広くなるばかりだった。
アイツがいるから……アイツの存在のせいで、カレは苦しんでいる。
そう思って、何度もアイツの存在を消そうと思った。
その度に、カレは涙を流して懇願した。
『許して、赦して、俺ガ、ワルインダ』
その声色は、まるでカレがカレ自身に暗示をかけているかのように虚ろで暗い。
そうして、2人の心の空洞はますます広がって行って。
でも。もう、それも終わる。
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