そらすそらさない6


「助かったのが奇跡です」


 まっ白い壁に囲まれた部屋で、まっ白い白衣をまとった医師はそう言ってカルテを見下ろす。

「彼の部屋の下にちょうど木があり、そこにひっかかったために地面の直撃を免れたのでしょう」



「そんなことはどうだっていいんだ」

「旦那は、無事なの?」


 「ノイローゼだったようですね。身体の至る所に自傷行為の痕もあるようですし」と、淡々と言葉を続ける医師に2人はくってかかる。



 いつもカレに見せている、落ち着いた様子など何処にもない。


 3つの瞳は水を失った魚のように不安定に揺れていた。


 その先の言葉次第では、息の根が止まってしまうかのような危うさを湛えて。



「アイツが……アイツがいないと」

「息の吸い方すら分からないんだ」



 自分の最愛の人が、マンションの自室から飛び降りたと聞き、2人の心臓は凍りついた。


 救急車で運ばれ、集中治療室に入ってからも命の保証がないと言われたまま無常に流れて行く時間が気も狂わんばかりに苦しかった。



 カレがいなくなってしまったら、どう生きて行けばいいのだろう?


 その顔を見ず、その声を聞かず、どうやって?

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