そらすそらさない3
――好きとは、何だ?
そう尋ねると、1人には唇を噛まれた。
むこうの舌が己の歯を舐め、舌を絡めとる。
「アンタを思うと、いろんなことに歯止めが利かなくなるんだ。もっともっと、アンタを知りたくなる。俺しか知らない、アンタの一面が欲しくなる」
耳元で囁かれたと思ったら、再び唇の自由を失った。
いつの間にか身体の自由も奪われていて。
嗚呼、確かにこんな気持ちは知らないから、己は好きという感情を知らないのだ。
彼に口の酸素を奪われながら思う。
もう1人は、カレの問いを聞くと、おもむろに彼自身の腕を包丁で傷つけた。
パッカリと開いた創。ドクドクと溢れてくる血。
「ほら、視て。旦那のためならこんなことも簡単にできるんだ。旦那のことを想うとこんな創、全然痛くないんだよ」
カレの目の前にその腕を突き出して、彼はとても幸福そうに笑った。
必死に止血をする己をとても嬉しそうに見つめる彼。
嗚呼、確かに己は2人のためとはいえ無意味に己を傷つけようとは思わないから、好きという感情を知らないのだ。
彼の視線に囚われながら思う。
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