分別盛り(後編)17
政宗の作品を見て、小十郎は息を飲んだ。
少しずつ、この若い主の作風が変わってきているというのは素人目にも分かった。
けれど、ここまで変わるとは。
そこに立っているのは、3人の男女だった。
裸の女が苦痛の表情で跪き、両手を上げて離れた手を見つめている。
その手の主は筋肉はあるが、顔は老けこんでいる悲壮感漂わす男。
そして、男に覆いかぶさり彼を連れ去ろうとしている醜い老婆。
男が女の元を去ろうとして、追いすがる彼女の手を離した瞬間を切り取った作品。
「どうした、小十郎。何処か傷でも見つけたか?」
普段なら作品に興味を持たない執事の珍しい様子を政宗はからかう。
その笑顔の中に潜む影を、小十郎は静かに発見した。
この女は政宗自身だ。
性別を変えたのは、己だと見破られるのが嫌だったからか。
それでも、ずっと傍で見守ってきた小十郎は、政宗の心の内を見破っていた。
プライドが高く、己以外の人間を認めようとしないこの若き主。
人に媚びることも、求めることも……すがることもなかった。
そんな彼が、こんな作品を残すなんて。
「題名はどうするかな?」
「そうだなぁ……」
教授に問われても、政宗は窓を見たまま煙草を吸っていた。
名前など考えてもいなかった。
作品を見る人に伝えたい内容も特にはない。
ただ、刻んでいなければ気が狂いそうで、夢中で作り上げただけ。
もし、伝えたいことがあるとしたら、彼にしか伝えたくはない。
そしてこの作品を見て欲しくは、無い。
ぼんやりと眺めると、庭には梅が咲いていた。
その美しさは彼の描いた梅を思い出す。
あの柔らかいタッチが脳裏に広がって、彼の穏やかな寝顔が浮かび上がってくる。
最後まで彼の笑顔を見なかったなと思いながら、政宗はそんな彼の幻を愛でた。
「……『分別盛り』って、どうだ?」
永遠に見ないであろう幸村の頬笑みに焦がれて、政宗は自嘲的に笑った。
煙草の煙が、ゆっくりと空へと立ちのぼっていく。
彼の存在に焦がれるかのように、高く高く。
蒼い空と紅い梅だけが、その行く末を見守っていた。
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※実在の作品『分別盛り』については、次頁に。
↓ゴマ様の【訳】より抜粋
この内容はNLよりもBLやGLの方があっているなと思い、最初に考えていた話を変えてこうしてサイトに載せさせていただきました。
個人的には、芸術と性は切っても切れないものだと思っています。特に、カミーユとロダンの恋愛をモチーフにするに当たって、性を避けては良いモノは書けないだろうと思い、裏描写も描きました。
NLでも書いたことがなかったので裏描写には苦しめられました(笑) しかし、妥協はしたくないと思い我がままながら時間をかけて更新しました。
出来栄えがとても不安だったのですが、この作品を好きだと言って下さる方がたくさんいて嬉しかったです。
3S(俺様・何様・政宗様)の政宗さんがイメージ違うと怒られないか冷や冷やしていたのですが、それもなくてホッとしています。本当にありがとうございました。
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