分別盛り(後編)10
それから、幸村は政宗の前から姿を消した。
聞けば大学を休学しているようだった。
幸村のこと逐一調べていながら、政宗は彼に連絡をとることはしなかった。
連絡をしても返ってこないことは分かっていた。
それに、どこかで。
幸村が自分から帰ってきてくれることを、期待していたのかもしれない。
幸村が大学に来なくなってから、政宗も大学に行かなくなった。
毎日、アトリエで時間を潰す。
石を刻むことはなかった。
彼が去ってから、創作意欲は針を刺した風船のように、空中に分解して、消えた。
「……」
気だるく、政宗は煙草をくゆらせた。
彼の周りには大量の吸殻と酒のビンが散らばっている。
そこに、ノックの音が響いた。
ギギィと軋んだ音を立てて開いていく扉。
目だけでそちらを見やれば。
「……どうも」
最も顔を見たくない男が、立っていた。
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