分別盛り(後編)9


「……さすけ」

 怖くて、俯いたままその名前を呼べば、とめどなく涙が溢れた。


 嗚呼、彼を見るのが怖い。

 彼は、きっと軽蔑した目で己を見ているに違いない。


「……だんな」

 こちらを振り向こうとはしない、幸村の背中を見て佐助はつらそうに瞼を伏せた。


 政宗は、そんな佐助をじっと見ていた。


 こいつが、幸村の心の中にいる男。


 言い訳をするつもりもない。

 この情景を見て分からない人間はいない。

 佐助も、己たちの関係を一瞬で悟っただろう。


 けれど、それだけでは足りなくて。


「!」

 政宗はおもむろに抱いていた幸村の顔を持ち上げて、口付けをした。


 身をよじる彼を無理に押さえつけて舌を絡める。

 必死に抵抗する幸村。


 それは今までで一番激しくて。


――ガリリッ


 幸村の爪が、政宗の頬を引っかいた。

 綺麗な肌に紅くて深い痕がつく。


「あ〜ぁ。いい男が台無しだ」

 唇を離して、政宗はわざと愉快そうに笑った。


「アンタは、いつも過激だよな」

 「そこがイイんだが」と冷たく言えば、佐助が政宗に拳を叩き込む。


 血の滲んだ唇の端を舐めて見上げると、佐助はとても静かな目をしていた。

 怒り過ぎて、感情を失った瞳。


「……殺してやりたいほど、アンタが憎い」


 吐き捨てるように言って、佐助は幸村の肩に触れた。

 ビクリと、震える華奢な身体。


「行こう、旦那」


 そんな彼に、佐助は己の着ていたジャケットを着せて、優しく頭を撫でた。

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