分別盛り(後編)8
不愉快な言葉を聞いて、政宗の眉は釣り上がった。
胸の奥で広がっていく黒い感情。
「俺の前でそいつの名前を呼ぶんじゃねぇ」
乱暴に言って幸村の服に触れる政宗は、その感情の正体が嫉妬だと気づいていない。
そうして始まるいつもの情事。
素肌があらわになっていきながら、幸村の顔は苦悩に歪む。
何も知らないうちに叩き込まれた。
身体は熱くなっても心は寒いまま。
己の身体なのに己のモノではなくなってしまったかのような焦燥感。
それをぶつけるように、ただ筆を動かした。
そんな絵で褒められても嬉しくはない。
絵を、乱れた心をぶつけるために利用したような気がして、幸村は苦しかった。
それなのに、まだ己の身体は
この男を
「くっ……」
気が付けば、涙が流れていた。
泣いたことは最初の時以来。
それでも、抵抗することはいつものことで。
慣れたように、政宗は瞼に唇を寄せて涙を舐めた。
嗚呼、いつもと同じ。
己は何も変わらない。変われない。
そう思い、諦めたように瞼を閉じる。
その時、
「そこまでだよ」
静かな声が、アトリエに響いた。
いつの間にか扉が開け放されていて、光と共に入ってきた人の顔は見えない。
けれど、その声を聞いて、幸村の身体はガタガタと震えだした。
何故なら、それは。
一番この場にいて欲しくなかった人だったから。
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