分別盛り(後編)7
「約束が、違う」
再び政宗のアトリエに連れて行かれて、幸村は政宗を睨みつけた。
「留学も決まった。もう、十分であろう?」
震える心を叱咤させて、幸村は気丈に唇を動かした。
己を責める彼を見ながら、政宗はそっと煙草を吸う。
鋭い視線ですらどこか色気を感じて、政宗の胸は疼いた。
そんな相手の心情を知らず、幸村は気持ちを落ち着かせようと大きく息を吸う。
「お前にとって、俺は」
今まで怖くて聞けなかった言葉を、勇気を出して発する。
「何なのだ?」
そんな彼の質問を、政宗は鼻で笑った。
「芸術仲間、だろ?」
その言葉を聞いて、瞳を翳らせる幸村。
その姿があまりにも美しく、まるで彼が一つの芸術作品であるかのような気持ちになって、政宗の優越感は満たされる。
この生ける傑作を作り出したのは。
間違いなく、己。
「アンタ、最近人物画も描くようになったんだろ」
煙草を消して、幸村へと近づいていく。
「男性特有の荒い色気をうまく表現してるってコンクールで好評だったらしいな」
そっと肩に触れれば、ビクリと反応する。
「俺たちの関係は互いに利になっている。そうだろ?」
いつものように、顎を持ち上げてこちらを無理矢理に向かせて。
「アンタだって、俺に抱かれるのが嫌いじゃないんだろ?」
政宗は、笑った。
振り上げた幸村の手を受け止めて、そのまま抱きしめる。
政宗の腕に閉じ込められながら、幸村の身体は震えていた。
「……もう、これ以上、隠していたくは無いんだ」
そして、
――さすけ
くぐもった声が、その名を形作って、零れ落ちた。
[ 47/194 ][*前へ] [次へ#]