分別盛り(後編)6
「……どうしたのだ」
佐助の瞳に、己の心の醜い部分を全て見透かされそうで、思わず視線を逸らす。
けれど、佐助はそんな幸村の頬に手を伸ばして、己の方へと向かせる。
「旦那」
普段は冗談交じりの声色が低く真摯に耳に響くと、途方もない色気を感じさせた。
息が苦しくなる。
彼が己を冷たい目で見ることが、何よりも、恐い。
「俺は、何よりも誰よりも、旦那が大切なんだ」
そんな幸村の様子を見つめて、佐助は静かに口を開いた。
「……」
「旦那が苦しんでいるなら、力になりたいんだ。旦那が笑ってくれないと、俺も笑顔になれないから」
佐助の言葉に、幸村はそっと首を振った。
「俺は、佐助が思っているような人間じゃない」
胸が苦しくて、息ができない。
これ以上優しくしてほしくなどなかった。
「ありのままの旦那が、俺の大切な人だ」
「ありがとう……。だが、佐助が心配することは何もない」
そう言って無理矢理に笑顔を作れば、佐助は少し切なそうに頷いた。
名残惜しそうに幸村の頬を撫でて手を離すと、そのまま食事を始めた。
沈黙のまま食事をしながら、幸村は静かに決意を固めていた。
これ以上、幼馴染みを心配させたくはない。
汚れたこの身体も心も元には戻らないが、あの関係だけは清算しなければならないと強く思った。
そうでなければ、いつか脱殻となって佐助の傍にいられなくなるような気がして、恐かった。
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