トワ11
政宗に案内されたのは、同じホテルのスイートルームだった。
2人しか泊まらないのに幾つも部屋があり、その家具1つひとつが高級。
フカフカと座り心地のいいソファに座りながら、幸村はある1つの覚悟を決めていた。
今まで政宗から逃げていたこの気持ちに、向かい合わなければと。
「政宗、どの」
飲み足りなかったようでワインのコルクを空ける政宗を、幸村はじっと見上げた。
「今日は貴殿の誕生日。貴殿が某を呼び、こうして共に時間を過ごしたのも、貴殿の過去への気持ちが在ったからでございましょう」
「……なら、アンタはもう俺の気持ちに気づいているのか?」
ゆっくりとワインをグラスに注ぎながら、政宗は呟く。
「その答えを、訊いてもいいんだな?」
「……あの時、『大阪夏の陣』の時、貴殿は某に文を下さいました」
――俺は、アンタと戦うつもりは無い。家康もこれが不毛な戦いだと分かっている。降参しろ。アンタは十分戦った
追い詰められてもはや次は無いと、そのために最後は快く闘おうと部下達と誓い合った矢先のことだった。
もはや、この身体だけになろうとも政宗は己のことを憂いているのだと、胸も熱くなった。
しかし、
「部下の為、今まで死んで逝った者たちの為、この命だけを長らえる事は、某はどうしてもできませんでした」
己の最後の命を賭けた闘いは、政宗との決闘であると今まで信じていたはずなのに。
「某は、家康殿との戦いに、この全てを捧げました」
軋む鎧。己の頬を撫でる熱気。絶えず鼻に入り込む死臭。
それらを身に纏い、わき目も振らずに家康の本陣へと突き進んだ。
狙うは、家康の首だけだった。
家康も幸村の気持ちを悟り、静かにその闘いを待っていた。
共に虎の魂を受け継いだ兄弟の、最後を見守っていた。
己に銃がつきつけられていると知りながらも走り続けた幸村の脳裏には、政宗の存在は消えていた。
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