分別盛り(後編)4
政宗は、自室のアトリエでタバコを吸っていた。
窓を開けて空に昇って行く煙をぼんやりと見つめている彼の後ろには、彫りかけの彫刻が転がっている。
石を刻めば刻むほどに、満足する作品ができない。
理由は分かっていた。
幸村が傍に居ないから。
留学が決まって、政宗も彼との関係の終わりを意識していた。
元からその約束だったのだ。
己の念願が叶い、この遊びも終わるはずだった。
けれど、できなかった。
終わりを告げるために会ってみても、気がつけばいつもの情事の繰り返し。
その温もりを感じている間はどんな傑作ですらも彫れそうな気がするのに、彼がいなくなればその手は止まった。
幸村がいない政宗は脱殻そのものだった。
まるでリャナンシーに取りつかれたかのように、幸村によって才能はますます研ぎ澄まされ、幸村の居ない世界に興味を失っていく。
このまま、己はどうなるのだろうかと考える。
彼に溺れ、石と共に命を削って、ボロボロになって死んでいくのだろうか。
けれど、そのおかげでまたとない傑作を創り、彼の傍で眠れるのならばそれは幸せなのかもしれないと想えた。
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