分別盛り(後編)3


 留学が決まっても、政宗の幸村に対する態度は変わらなかった。


 まるで何事もなかったかのように彼の指は幸村の身体の深い所に触れていった。


 されるがままになりながら、幸村の心は軋んでいく。



 幸村にとって、政宗は神だった。


 類稀な芸術の才能を持ち、その才能と威厳で己を屈服させる、横暴で絶対的な神。


 その眼に見られると心が凍った。

 射すくめられて、身体が動かなくなる。


 それでも必死に抵抗すれば、ルームメイトにバラすと言われてなす術もなくなって。

 現実を見ないようにと強く瞼を閉じればルームメイトの顔が浮かんで消える。


 彼が、今の己の姿を見ればどう思うのだろうか?

 幼い頃から己の傍にいて、支えてくれた彼は。


 軽蔑されたくないと、強く想う。


 だから、今まで嘘と隠蔽で塗り固めて来た。


 政宗の留学が決まり、この関係が終わるまでと。



「お、俺は……」


 大鷲を視線でなぞり、ポツリと声が落ちる。

 カタカタと、身体が震えた。


 こんなにも拒絶をしながらも、身体はあの男を求めているのだ。


「俺は、どうなるのだ……?」


 絞り出すように呟いた言葉は空中で分解して消える。


 最終的にガニュメデスの存在はゼウスの妻の怒りを買い、彼女から守るためにゼウスは彼を星座にしたと伝えられている。


 ならば、神に囚われながらも星になれない己はどうなるのだろうか?


 飽きられて、捨てられて。


 もしその時に、自分ではどうしようもならない程に彼に溺れていたのなら?


 ただ、廃人として生きるしかないのではないだろうか。


 己で己を抱き締めて不安でうなだれれば、長い髪がサラリと落ちた。



 幸村の後姿はか弱く頼りない。


 その背中をじっと見つめる人間が居ることを、彼は知らなかった。

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