トワ10
フォークを握りしめながら、幸村は俯く。
変わらずに己と接する政宗。
ならば、己は?
あの日。あの決意をした時。
あの時から、己は変わり果てて居ないのだろうか。
現世になってまで政宗が望んでいるモノなど、もうとっくに己は持っていないのではないだろうか。
「中々の味だろ?」
政宗は慣れたように給仕を呼ぶと、グラスにワインを注がせる。
その様子を見て、幸村は咎める顔をした。
「政宗殿……貴殿はまだ、」
「昔は19歳って言ったら立派な青年だったぞ。アンタだって今の歳で十分飲んでたじゃねぇか」
「昔は昔でござる」
「気にすんなよ」
そう言ってグラスを傾けると、政宗はクツクツと笑った。
「そういえば。アンタ、酒が弱いくせに無理して飲んで床で寝てたことがあったよな」
「あ、あれは」
何百年前のことがまるでつい最近の事のように想い出されて、幸村は赤くなった。
奥州へと赴き共に城下町を周ったその日の夜、夕食の席で幸村は政宗に酒を勧められた。
あまり酒を嗜んではいなかった彼は、注がれるままに飲みほしていき、そのまま酔いつぶれてしまった。
「あの時は、醜態をさらしてしまい、申し訳ない……」
広い客室で倒れて眠ってしまったことを思いだし、消え入らんばかりの声で詫びる。
「嗚呼、そうだな」
一方の政宗は、表情の読めない顔でワインを口に運び、グラスを回しながらその紅を見つめた。
「理性を失わないのに必死だった」
政宗の言葉の意味が分からず首をかしげた幸村に、政宗は笑いかける。
「今夜、空いてるだろ? アンタの一晩を俺に貸してくれ」
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