分別盛り(前編)6


――彫刻を作ることにおいて、その肌質にリアリティを出すには実際に触れることが一番


 気だるく起き上がって、政宗は煙草に火をつける。


――その人間の作品を作ることは、その身体を知ることなのだよ


 素肌にまとわりつく白いシーツに灰が零れ落ちる様を見つめていると、前に教授が言っていた言葉が思い出された。



 初めて聞いた時は只のエロ爺が女を抱きたい言い訳だと思っていた。

 現に、芸術のためだと言って不義を働く人間は、この学校だけで見ても、教授にも生徒にも星の数ほどいる。


 芸術と性は結びつくものではない。それらを結びつける人間は、芸術を盾にした只の色欲魔。

 芸術家でもなんでもない。


 そう、軽蔑していたのに。



「……」

 そっと、己の隣に視線を移す。


 そこには、肩をむき出しにして眠る少年の姿があった。


 シーツにくるまれてはいるが、薄い生地のためにその身体のラインがはっきりと見て取れる。

 くくっていた一房だけの長い髪はほどけて広がり、シーツに色を付けている。

 唇は薄く開いて苦しそうな吐息を漏らしていた。


 そして、指の形に赤くなっている手首と、涙で腫れた目元。


 政宗に組み敷かれた時に散々抵抗したことを物語る痛々しい傷を、そっと指でなぞった。


 よく見ると、己の口が傷つけた紅いシミが白い肌の至る所にできていて。



「一体、どうしたんだろうな」


 途方にくれながら、ポツリと政宗は呟く。


 パラパラと灰がシーツに落ちていく。



 煙草を手に持ったまま、吸うことを忘れていた。

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