分別盛り(前編)5
「まぁ、女の裸なんざそれなりに見ただろ? アンタだってその女に裸見せたんだ。今更男に見られても何もねぇだろ。恥ずかしがってないでさっさとこっち向けよ」
「デッサンができねぇ」と零す政宗。
胸の疼きを感じながらも、己は純粋に作品のために彼を描いているのだと信じていた。
しかし、
「そんな経験、ないでござる」
消え入りそうな幸村の声が耳に飛び込んできた。
「女の裸を見たことも、見せたことも。……共有の温泉にすら行ったことはないのに。同性にだって裸を見せたことなんて、今迄に」
「ない」と、俯く幸村。
心細そうに震える身体。
かろうじて見える耳が赤く染まっている。
ふと、首だけ動き、横顔でこちらを見た。
潤んだ瞳が政宗を映す。
頬は朱に染まり、強く噛んだ唇は形よく歪む。
己を責めている表情。
それが何ともいえぬ婀娜を纏い、政宗の感情を奪う。
美しい
初めて脳裡に浮かんだ言葉に、政宗は瞬きを忘れる。
ペンを動かす手が止まっていた。
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