分別盛り(前編)4
一糸まとわぬ姿の彼を、シーツを敷いた上に置いた椅子に座らせる。
羞恥に染まり、背を向けてこちらを見ようとしない少年に対して残酷な笑みを浮かべて、政宗はスケッチブックを広げた。
「今日、教授に美少年を彫れって言われたんだ。丁度いいのが見つかって良かったぜ」
そう言いながら、流れる手つきで少年の後ろ姿を描いていく。
サラサラと、鉛筆が紙に触れる音が政宗のアトリエに響いた。
最初、彫刻の手伝いをさせようとした政宗だったが、少年が油絵を専攻していて彫刻の経験がなかったことを知り、自宅に連れ帰ってモデルをさせることにしたのだった。
最初は抵抗していた少年だったが、アトリエに閉じ込められ、召使も目を光らせていることを知ると、終わるまで帰れないと悟り、しぶしぶ服を脱いだ。
「お、俺ではなくとも、モデルに頼めばよいであろう」
羞恥のためか、一人称が変わっている。
強く拳を握った。震える腕。
肩甲骨が、ますますクッキリと見える。
「たまには素人を描いた方が発見があるんだよ」
適当なことを言って、スケッチブックと彼の背中を交互に見つめる政宗。
相も変わらず、少年はこちらを見ようとはしない。
「ヌードデッサンなんざ飽きるほどしただろ? 今日はアンタが逆の立場になってるってだけだ。そう恥ずかしがる必要もない」
そんな少年の初心さに、政宗は笑った。
すらりとした真っ白い背中だけが政宗の瞳を刺激する。
「今まで風景ばかり描いていたので、人間の…特に、裸のデッサンはしたことがござらぬ」
「マジか?」
向こうを向いたまま頷く少年。
首が動く度、一房だけの長い髪が背中で揺れる。
「ふ、服を着ている人は何度も。しかし、まだヌードは授業もないゆえ」
「ふぅん」
会話をしながらも政宗の鉛筆を持つ手は止まらない。
しかし、それは長年の経験で手が勝手に動いているからと言った方が合っている。
政宗の意識は、もっと別の所にあった。
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