分別盛り(前編)2


「美に焦がれるだって?」

 煙草の煙を吐き出しながら、政宗は忌々しそうに呟いた。


 女性なんかに興味はなかった。もちろん、美しいとも思ったことはない。


 子供の頃から、その整った顔と才能と家柄のお蔭で頼んでもいないのに彼女たちは寄ってきた。

 しかし、それも上辺を取り繕っただけのつまらない媚びばかり。遊びで何人か抱いたこともあったが、恋人面し始めるその態度が不快ですぐに縁を切った。


「莫迦らしい。人間の本質なんざ、もっと醜いモンだろ?」

 そう吐き捨てて、彼は煙草の火を乱暴に消す。


 すると。



――ガッシャーン



 石が砕ける音が響き、政宗は作品が置いてある部屋へと駈け出した。



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 部屋に入ると、そこには床に倒れて砕けた己の作品が目に飛び込んできた。


 そして、その前に立つ少年の背中が見えて、

「テメェッ。俺の作品になんてことしてくれたんだ!!」

 気がついたら少年の襟元を掴んで拳を振り上げていた。


「タダじゃおかねぇ……!!」

 怒りで我を忘れた政宗は、己の傑作を壊したのはこの少年だと信じて疑わなかった。

 俯いたままの顔に拳を叩き込もうとする。


 しかし、


「某ではござらぬ」


 そう、凛とした声が古風なしゃべり方で響いた。



「大きな音が聞こえた故、何事かと見に来たまで。貴殿の作品を壊したのは某ではない誰かでござるよ」



 ゆっくりと、顔が政宗に向いていく。


 大きく、気丈な瞳が政宗を映し込む。



「なっ……」


 殴ることを忘れて、彼はただ目を見張った。

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