分別盛り(前編)1

 深夜のアトリエ。


 政宗は窓に寄りかかって煙草をくゆらせる。

 煙が向かって行く先は鋭い三日月。普段ならなんの感慨も湧かないが、今夜だけは違っていた。


「ようやくできたぜ」

 そう満足そうに呟いて、彼は部屋の中に振り向く。

 そこには、彼が力を籠めて作った彫刻があった。



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「とても素晴らしい」


 政宗が自宅から運んできた作品を見て、教授は感心したように頷く。


「まるで生きているようだ」

 そんな教授の言葉に政宗は当然だと言うように唇を歪めた。


 彼らの前に立つ石でできた男は神話に登場する人物だった。簡素な鎧を身に包み、剣を振り上げて猛々しく叫んだ一瞬が石に刻みこまれている。

 表情は死地に向かうかのように気迫に満ち溢れ、飾り気のない鎧のために男の筋肉が露になっており、見る人間にリアリティを出している。

 どこをとっても、政宗の技術の高さを覗わせていた。


「これで、来年のパリ留学は間違いないだろうな」

「ありがとうございます」

 長年の夢が叶うと、政宗は教授に肩を叩かれながら笑みを浮かべた。


「伊達君、君の彫る戦士はとても素晴らしい。荒ぶり、残虐性を持った人間の一面を表現することにおいては、君の右に出る者はいないだろう」

 そんな政宗に、教授は顎に手を当てて言う。


「しかし、芸術には美しさや色気というものも大切だよ。私は一度、君の彫る女性や美少年なども見てみたい」

「……」


 思わぬことを言われ、政宗は眉を吊り上げる。芸術家の両親の元に生まれ、その類まれな彫刻の才能から神童と言われて育った彼には、アドバイスすらも不愉快なことだった。


「まぁ、それは君自身が変わらないといけないかもしれないな。美しさを求めるにはその美に恋い焦がれなければならん。君はまだ、その美を知らないのだろう」

 そう、教授は一方的に納得して去って行った。

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