トワ9
前世でも確か、こんなことが在った。
戦と戦の間。ほんの少しだけ同盟を結んだ時期。
幸村は使者として奥州へと参った。
その時、政宗は幸村に街中を案内すると言って、供もつけずに城下町を幸村と2人で歩いた。
迷子になるからと、人混みの多い所では手を引かれた。
他国の使者でしかない人間と2人きりで、このような形で街中を歩けば奥州の人間がどう思うかと気が気でない幸村に対して、政宗はただ笑っていた。
――そんなことで危ぶまれる立場なら、いらねぇよ
「What’s happen?」
過去と同じ声で問われて、幸村は顔を上げた。
まっ白いクロスが敷かれたテーブルをはさんで、政宗がこちらを見つめている。
「あ、いえ。申し訳ござらぬ……。少し考え事をしていたもので」
「今、必要なことか?」
政宗はナイフで肉を切りながら訊いてきた。
「……昔の事を想い出しておりました」
「大切なのは今だろ?」
徒歩で色々な場所を周り、最後に政宗が連れてきたのはホテルの最上階のレストランだった。
ミシュランで星がつくほどの味はもちろんのこと、外の景色の素晴らしさで有名なレストランを、幸村は噂で聞いたことはあったけれど、実際に行くことは初めて。
テーブルマナーに戸惑う彼を、政宗は「見苦しくなければ十分だ」と笑った。
「申し訳、ござらぬ」
「いいや、それよりもそのフォアグラを食べてみろよ。ここのは絶品だ」
昔と変わらぬ、優しさと温もり。
変わらずに、政宗は現世も幸村の前に姿を現している。
闘いの中とは違った政宗の一面は幸村の心を落ち着かせた。
――狙うのは、貴殿のその首のみっ!!
――待て! 彼を撃つな……!!
甘えてしまいそうになって瞼を閉じれば、あの時の銃声が耳に響いた。
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