悪讐(あくしゅう)4
刀の交わる音が焼け野原に響き渡る。
政宗の激しい攻撃を、松永はただ受け流していた。
「どうして攻撃しない」
そんな梟の様子を見て、政宗は眉を顰めた。
「この俺を舐めるんじゃねぇ」
「不愉快に思わないでくれたまえ。卿の激情の歌を聞いていただけだ」
「……んだと?」
距離をとって相手の様子を窺う竜を、梟はまるで餌のように見下す。
「表には出さないでいるが、卿の胸を渦巻いているのは途方もない怒りと焦りと渇望。その叫びが何とも素晴らしくてね」
「気持と悪いことを言ってやがる」
忌々しく舌打ちをする政宗の様子を無視して、松永は薄い唇を開く。
「若き虎……名は確か、真田幸村と言ったか」
「アイツの名を馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇよ!」
「あの者に懸想していたのかね? その激情の歌は、彼の存在によって奏でられているものだろう」
幸村の名前を聞いて表情を変える政宗を興味深そうに眺める松永。
「珍しく殊勝なものだな、独眼竜。手に入れられなかったのは、彼の者の信頼を失うのが怖かったからか。愉快なものだ。恐れるものなどなかった卿が、一介の武将に骨を抜かれるとは」
さも愉快そうに、松永は己の顎を撫でて政宗の心の内を見抜いて行く。
「しかし、真に残念な報せだよ。卿の想い人は、最期に主と部下の名前を呼んでいた。卿のことなど脳裡になかったようだ」
「……」
心の中で舌打ちする。
挑発に乗ってはいけないと己に言い聞かせる。
「バカ言うんじゃねぇ」
再び刀を構え、政宗は唸るような声を上げる。
「アイツは俺のrivalなだけだ。アイツを殺すのはこの俺。それだけだ」
そして、松永の元へ真っ直ぐに駆ける。
「己の心を隠すか。殺して手に入れることで独占欲を満たす。何とも狂おしい慕情ではないかね?」
竜の殺気を全身で感じながらも、梟は刀を持つ手を下げたまま。
「卿と彼の者との音色、随分と楽しませてもらったよ。その余韻を残したまま、卿にはご退場願おう」
そう言うと、突如強い風が吹いた。
体制を崩すもかろうじて立て直した政宗が再び松永を睨みつければ。
「……なっ」
松永の後ろに、捜していた想い人が佇んでいた。
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