悪讐(あくしゅう)3
「松永っ!」
政宗が犬歯を出して睨みつければ、男はただ唇を歪ませた。
「一刻の主である卿がこのような荒れ地に一体何の用かね? そこまで奥州も平和だということか」
「滅ぼした国に1週間も滞在しているアンタに言われたくねぇ。……跡形もなく燃やしやがって。相変わらず趣味わりぃな」
「悪いが、手をかけたモノに対する思慕の念などなくてね。崩れかかったままその醜い姿を見苦しく曝し続けるのならば、一瞬で無に帰った方がモノも本望だろう」
「そんな勝手な言い分でアンタは多くのモノを滅ぼすっていうのか?」
「滅ぼすことが目的なのではないのだよ。私が欲しいのは、唯一無二の至宝。……そう、卿が持つ、その六の爪(りゅうのかたな)のような、ね」
松永の言葉に眉を顰めながら、政宗はある違和感を覚えていた。
悪臭が漂ってくるのだ。
何かが腐ったような、不愉快な匂い。
「人の宝にばかり気が向いて、肝心の自分のことには気づいてねぇようだな。……アンタ、死臭がするぜ」
「嗚呼、そのことか」
政宗の指摘に思い当ったような声音の松永。
「何、卿への餞としていずれ贈るモノだよ。そう焦る必要もあるまい」
しかし、その正体を言うつもりはなかったようだった。
「相変わらず趣味の悪いオッサンだな。まぁいい。いずれにせよ、武田は俺がもらう予定だったんだ。今ここでいただくぜ」
勝気に言って刃を抜く政宗の姿を、松永は読めない表情で眺め、そっと眼を細めた。
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