猿の眼(ましらのめ)14
『愛』という言葉を、まだ初心な幸村は知らなかったのかもしれない。
しかし、どこか佐助の真摯な声色に、幸村はそっと頷いた。
「ありがとう。愛してるよ……旦那」
そっと幸村の耳を刺激する声は震えていた。
嗚咽を噛んで、幸村を強く抱きしめる。
「佐助、俺は何処にも行かない。……だから、無理をするな」
己の温もりに縋りつくように甘える佐助の背中に、幸村はおずおずと手を回す。
優しくさすりながら顔を上げれば、夜空には満点の星が浮かんでいる。
背中越しに見える月はとても美しかった。
そして、その月に照らされた迷彩色もまた、清らかに輝いていた。
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