猿の眼(ましらのめ)12


「……は?」

 ポカンとした顔の佐助。



「お前は、俺がどれだけ想ってもいつも自分はこの世に必要ではないという顔をする」


 呆気にとられた佐助の元に、幸村は一歩一歩より近づいていく。



「お前がいないと、俺は夜眠ることすらできない。常に悪夢に恐れたままだ。お前が話を聞いてくれるから、叱咤してくれるから、俺は今もこうして自我を保っていられるのに」


 佐助の目の前に立つと、幸村は愛おしそうにそっと彼の手をとった。


「どんなに血に染まろうとも、お前の身体も心も汚れてはいない。お前は、佐助という人間なのだ。……猿なんかじゃ、ない」


 そう言って、優しくさする。



「大将……止めろ。毒が塗ってないとも限らないんだ」


 佐助の手袋には、肉弾戦でも相手を傷つけられるようにと見えない所に刃物がし込んであった。

 確実に暗殺をする時は、刃物に毒を塗ることもある。


 案の定、主の手からは血が滲んできていた。



「この手は武田を…俺を守る手だ」


 己の手から血が滴るのも構わず、幸村はそう言って微笑む。



「どのような手であろうとも、俺は佐助の手が好きだ」


「……だんな」



 気がつけば、佐助の至近距離に幸村の整った顔があった。



 己の曇った視界にも、その姿はあまりにも美しくて。

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