猿の眼(ましらのめ)11


「佐助、怪我は無いか?」


 松永が立ち去った後、相変わらず佐助の心配をする幸村。


「馬鹿野郎! さっき、命の価値を見定めろと言ったばかりだろうが!!」

 己の主の甘さに、佐助は感情的に怒鳴った。


「何だって此処に来た? いざとなれば俺様を盾にしろとあんなに言っただろ」


 唇を噛んで己の言葉を聞く主。

 その瞳は揺れていたが、佐助の唇は止まらない。


「アンタの命は武田で一番重いんだ! たかが一介の、人ですらない忍のために命かけて…」


 その時、主の顔が朱に差したかと思うと、



――パシン



 力のない平手打ちが、小さく響いた。



「……そんなこと、言うな」


 嗚咽のこらえた声が佐助の耳を貫く。


「甲斐の国の安寧のために命を砕き、この日の本を統一させ、お館様の魂を未来につなぐ。俺には大切な務めがあることは知っている。だが、もし望む世を作ったとしても」


 グッと唇を再び噛んで、幸村は佐助を真っ直ぐに見据えた。



「お前がいなければ、意味がないだろう!?」

[ 91/194 ]

[*前へ] [次へ#]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -