猿の眼(ましらのめ)10
「そこまでにしていただこう」
そう、凛とした声がしたかと思うと、紅い影が佐助と松永の間に入った。
「大将……!」
目を見張る佐助。
「貴殿の望みは、武田の門外不出の宝であろう?」
「馬鹿野郎! なんで出て来たんだ!! 退けっ、大将!!」
怒鳴る佐助。
幸村はじっと松永を睨みつけて、言葉を紡いだ。
「生憎と手元にはござらぬ。今、ここで某を討っても構わぬが、お館様と某しかしらぬ所に保管しておりますれば。もし某の首を刎ねれば、至宝は永遠に手に入らなくなりますぞ」
未熟ながらも必死に絞った知恵など、松永には簡単に見破れる。
しかし、彼は幼い虎猫の姿を見てクツクツと笑った。
「そうまでして、その忍を守りたいのかね?」
「佐助は武田の大切な副将でござる。人も武田の大切な財産。武田のために命をかけるのならば、その財産を守る為にも命をかけましょうぞ」
「……そうか」
松永は顎に手を当てて幸村を値踏みした。
「卿の依存は底なしだ。貰いきれる気がしない。……その依存を貰いきるまで、今は一旦お預けとしよう」
そう言うと、松永は珍しく驚いた様子の佐助を見た。
「そしていつか、卿の光をもらうとしよう。その心に隠した光を、ね」
「……次に見(まみ)える時は、貴殿に真田が御旗の六文銭を贈りましょうぞ」
何処か得体の知れないオーラを身に受けながらも、幸村は気丈に松永を見据えていた。
[ 90/194 ][*前へ] [次へ#]