猿の眼(ましらのめ)10


「そこまでにしていただこう」


 そう、凛とした声がしたかと思うと、紅い影が佐助と松永の間に入った。


「大将……!」

 目を見張る佐助。


「貴殿の望みは、武田の門外不出の宝であろう?」

「馬鹿野郎! なんで出て来たんだ!! 退けっ、大将!!」


 怒鳴る佐助。

 幸村はじっと松永を睨みつけて、言葉を紡いだ。


「生憎と手元にはござらぬ。今、ここで某を討っても構わぬが、お館様と某しかしらぬ所に保管しておりますれば。もし某の首を刎ねれば、至宝は永遠に手に入らなくなりますぞ」


 未熟ながらも必死に絞った知恵など、松永には簡単に見破れる。

 しかし、彼は幼い虎猫の姿を見てクツクツと笑った。


「そうまでして、その忍を守りたいのかね?」

「佐助は武田の大切な副将でござる。人も武田の大切な財産。武田のために命をかけるのならば、その財産を守る為にも命をかけましょうぞ」


「……そうか」

 松永は顎に手を当てて幸村を値踏みした。


「卿の依存は底なしだ。貰いきれる気がしない。……その依存を貰いきるまで、今は一旦お預けとしよう」


 そう言うと、松永は珍しく驚いた様子の佐助を見た。



「そしていつか、卿の光をもらうとしよう。その心に隠した光を、ね」


「……次に見(まみ)える時は、貴殿に真田が御旗の六文銭を贈りましょうぞ」


 何処か得体の知れないオーラを身に受けながらも、幸村は気丈に松永を見据えていた。

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