猿の眼(ましらのめ)8
上田へと戻る度の途中、夜も暗くなったため、野営をすることにした。
けが人のうめき声が小さく響く中、幸村はそっとたき火を見つめていた。
その姿をじっと見つめる佐助。
「己が力で立つというのは、何と難しいことか」
ポツリと零れおちる声が炎で燃える。
いつも明るく前だけを見ていた主は、もう、どこにもいなかった。
「学べ、そして立ち上がるんだ。皆、それを望んでいる」
厳しく答える副将の言葉に、幸村は大きく頷く。
「守りたいのだ。お館様の愛する、甲斐の国を、民を、兵を」
じっと炎を見つめる瞳が紅く揺れている。
白い頬にも紅が差しており、その姿が佐助の視界の中でより一層輝いて見えた。
「だったら、命の優先順位を見定めろ。何かあれば、俺様を盾にして逃げるんだ」
佐助のその言葉で、幸村は初めて佐助の方に視線を向ける。
その表情はどこか淋しさで陰っていて、
「俺は、」
その時、遠くから爆発音が響き渡った。
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