猿の眼(ましらのめ)7
「佐助、何処に行っていたのだ」
再び主の元に現れると、彼は心配そうに駆け寄ってくる。
その表情はとてもよくわかった。
人間の姿、だったから。
「上田へ帰ろう。兵の皆も疲弊している」
そう言って歩き出す主の背中に描かれた六文銭を見つめた。
地獄への渡し賃。
真田家が戦の時に、常に肩身離さず身につけるモノ。
『だめよ…どんなに願っても、その血の跡は拭えない』
ふと、過去に言われた言葉が思い出された。
幼いころから血に染まっていたこの身体。
人としてすら扱われない、この忍という身分。
己ですら猿に見えるこの存在が地獄に向かう際、己の魂は六文の価値もないのだろう。
しかし、全てを疑うこの狡猾さを今はよしと思えた。
忍だからできることもある。
血に染まりきったこの身体を捨てる覚悟は、とっくにできていた。
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