猿の眼(ましらのめ)3


「簡単に怪我なんかするんじゃねぇぞ、大将」


 そう呟きながらも手は止まらない。

 敢えて幸村の姿になったのは、敵を撹乱する以上に、彼の命を狙う人間を己に向かせるためだった。


 総大将の首がとられれば、甲斐は終わる。

 ならば、贋物はたくさんあればあるほどいい。


「俺様を……武田を舐めて貰っちゃ困るぜ?」

 そう不敵に笑った途端に、至る所から悲鳴が聞こえてきた。


 今ごろ己の分身たちが他の場所で働いている。どれが本物かなど判断などできないだろう。

 困惑のままに黄泉へと旅立てばいい。


「1人残るのは寂しいだろ? まとめて一緒に逝かせてやるよ」


 佐助の視界にはすでに人は居なかった。


 醜い奇声を上げる、猿ばかり。


 忘れていた、はるか昔に視た世界。

 
「あの頃のことを思い出す。俺が、悪鬼だった頃に」

 呟きながらも殺戮を行う手を止めない。


 いつの間にか、武器を握る己の手も人のモノではなくなっていた。


「嫌だねぇ……。分かっていたけどさ」


 感情の籠らない声色で呟いて、佐助は己の周りを遺体で埋めて行く。


 思い知ってしまっていた。


 忘れようとしても、己は猿のままなのだと。

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