猿の眼(ましらのめ)2


「大将、アンタのするべきことは先陣切って敵を倒すことじゃない。わかっているんだろ?」


 鉢巻きを結び直して戦場にかけようとする主を佐助がわざと冷たく諭すと、彼はそっと首をふった。

「分かっている。だが、戦況は不利。俺はこの槍を奮う以外にまだ道を知らぬ」


 腕を組んだまま何も答えない佐助。

 新しい大将たる幸村は、雄たけびを上げながら自ら戦火の中に突っ込んでいく。


「……たっく」

 その姿を見て、佐助は舌打ちをした。


 確かに、幸村が己の力で戦場をかければこの戦は勝てるだろう。

 しかし、今彼に求められているのはそうではない。


 部下を使い、己と武田軍そのものが生き残るために策を練ることだ。


「何のために俺様がいる? 俺様に命令すれば良い話だろうが」


 甲斐の虎が病に倒れてから、武田軍の命運は己の主へとのし掛かっていた。

 一介の武士として、己の命を捨てることをよしとしてきた主にとっては、甲斐を生かし続ける事だけではなく、己を生かすことすら困難なことだった。


「アンタの今の命は、この武田の中で何よりも重いんだぜ」


 そう言うと、自らを主の姿に変えて彼も戦場へと降り立つ。

 突然現れた2人の総大将に敵が困惑する様が見て取れる。

 その隙に次々と首を刎ねていった。


 どんな状況であれ、殺し合いの中で気を抜いた方が悪いのだ。

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