溺レル5
咳き込みながら地面に横たわる幸村。
そんな彼を、政宗は腕を組んで食い入るように、只、見つめる。
幸村は虚ろな目をしながら水を吐き出した。
「さすけ……すまない。武だと、おやかたさま、を……」
それでも、どこか遠くを見るように掠れた声を唇から零す。
幸村の言葉で、政宗の瞳は色を変えた。
「黙れ!」
尚も己を見ない彼の腹を思い切り蹴りつける。
鈍い声と共に彼の口からは大量の水が再び溢れた。
「……水底の中で俺を見たか?」
苦しそうに咳や水を吐いている幸村を見下ろし、政宗は不気味なほど静かな声で尋ねる。
「俺の声を聴いたか?」
政宗の言葉を聞く余裕が幸村にはない。それでも、問いかけ続ける。
「アンタを助けた太陽は、一体誰だった?」
わざと感情を殺いだその声色には、途方もない哀願が混じっているのを政宗自身も気づいていない。
「虎の魂を受け継ぐ絆? 全く、バカにしてやがる」
虎が虫の息の今、邪魔なのはあの忍だけだと思っていたのに。
「……くそっ」
嗚呼、どれほど待てば彼の者を独占できる?
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