溺レル4
致命傷は与えない。
全て、峰打ちで叩いた。
殺すつもりなどない。
怪我をさせるつもりもない。
血が流れたら、この水が赤く染まってしまう。
彼を包み込む己が消えてしまう。
最愛の人を底の深い池にほおり投げ、もがいて浮かんでこようとしたところを鞘で押して再び沈める。
幸村の足掻く手足で飛び散る水で自身も身体を濡らしながら、政宗は只水に犯される彼を見つめた。
濡れた髪や服が顔や身体に張り付き、彼の肢体のラインを露にさせている。
はぁはぁと空気を求める唇は閨の時を連想させる。
そして、どれほど動いても形を変えてまとわりつく、彼を包む水面。
幸村が動く度に輝きを変えるその様は美しい。
その輝きをも色あせてしまうほど幸村は美しいのだと、改めて知るほどに。
けれど、その光景は太陽の光が在ってこそ創られるのだ。
―――ばしゃっ!
おもむろに、政宗は幸村の腕を掴んで引き上げた。
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