トワ6
眼が覚めたのは、随分と長い間鳴り続けていたであろう携帯電話の着信音のせいだった。
あまり携帯電話をいじらない彼は、着信の設定も買った時のまま。
だから、無機質な機械の音が何の変化も無く鳴り続けていた。
『Good morning。随分と寝ぼすけなんだな』
鈍い動きで耳に当てれば、昨日も聞いた声が鼓膜に響く。
「これは政宗殿。こんな早くに如何なされた?」
眠気の方が勝るのか、幸村の声の速度が遅い。
『早くねぇ。時計見てみろよ。もう9時だぜ? いい加減起きろ』
「なれど、今日は土曜日でありますれば。昨晩は遅くまで勉強をしていた故…」
『言い訳はいい。単刀直入に聞くが、アンタ、今日空いてるか?』
突然の申し出に、幸村は寝起きの眼をシバシバとさせた。
「はぁ……。今日でござりまするか」
『そうだ。今日』
「特に予定はございませぬが」
『なら、早く着替えて出てこいよ。遊びに行こうぜ』
平日は毎日会っていたが、こうして休日に誘われたことは初めてだった。
「分かり申した。今から準備いたす故、多少時間がかかりまするが……。何時に、何処に向かえばよろしいですか?」
少し驚きながらも、幸村は政宗の集合時間と場所を訊ねる。と、
「なるべく早く、アンタの家の前だ」
と、言う答えが返ってきて慌ててカーテンを開ける。
そこに、幸村の家の門の前で、携帯電話を耳に当てている政宗が、こちらの部屋の窓を見つめていた。
幸村と眼が合うと、彼はふわりと微笑んでヒラヒラと手を振る。
「な、なんと……」
『待ってるから、早く来いよな』
ポカンとしている幸村の持つ携帯電話からそんな言葉が聞こえると、通話は切れた。
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