溺レル2



 ようやく念願叶った好敵手との二人だけの戦いは、今回も引き分けだった。 


「決着は次回にお預けだな。真田幸村」



 そう言いながらも、政宗の顔は明るい。未来への楽しみが伸びただけだったから。


 彼の声を聞いて地面に座りこんで荒い息をしながら、幸村も穏やかに笑う。


「こうして、晴れやかな気持ちで貴殿と戦えたこと、某の誇りでござる。ずっと見ていた夢がようやく消えたからこそにございますな」

「Dream?」

「左様」


 政宗の言葉に頷いて、幸村は言葉を続けた。



「某は深く青い水底に在り、どんなにもがこうとも水面から顔を出すこと叶わず、ただ水音が耳に響くだけでございました」


 息と共に吐き出されるその言葉を、政宗は膝を立てて耳を傾ける。


 一般の男性よりも少し高く、幼さの残る声は彼の胸に心地よく響いた。



「見上げると、いつも太陽の光が某を照らしており……何時からか、その太陽が某に語りかけるようになりました。自分に返れ、と」


 手をかざしながら太陽を見上げる幸村の姿をそっと盗み見る。


 光の粒が彼を包み込んでいるような、そんな神聖な美しさに見惚れた。



「ようやく分かったのでございます。某は誰かになって、国を民を支えることは叶いませぬ。某は某。お館様にも政宗殿にも……家康殿にもなれはしない」

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