死の勝利8

 震える背中を見つめて、幸村は再び誤解の花を心に咲かせる。


 その花は鋭い棘を持ち、幸村の心を無情に突き刺し血を流させる。



「政宗殿は……佐助を?」


 呟いた言葉は政宗には聞こえなかった。


 力任せに血塗れの幸村を抱きしめる政宗。


 しかし、幸村には彼にすがりつかれているように感じた。


 震える政宗の身体をそっと抱きしめ、彼は優しく背中をさする。


「こんなにも悲しんでくださるとは、政宗殿も佐助を大切に思ってくださっていたのですな」



 口の中に残る異物感と血生臭い匂い。


 永遠に慣れることのないこの苦痛を、腹心の身体を食い尽くすまで止めてはならない。



「……この身体を食らうのは、某ではなく、貴殿の方が似合っておいでなのかもしれぬ」


 今まで見たこともない泣き崩れた好敵手の様子に、幸村はかすかな嫉妬心を滲ませ瞼を閉じる。



「俺は、もう、……喰えないんだ。永遠に……手に、入れられ、ない」



 ゆきむらぁ


 己の名を呼ぶ好敵手にそっと頷く。



「某はここにいるでござるよ、政宗殿。政宗殿が某を殺してくださらないのなら、某は永遠に政宗殿の傍におりまする。政宗殿の望むまで」



 いつまでも響く、竜の泣き声に胸が焼けるような痛みに苛まれる。


 その苦しみは、腹心に対してなのか好敵手に対してなのか分らない。



 ただ、この果て無い絶望の中で、政宗のぬくもりだけが救いだった。

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