死の勝利6
「……俺ならもっと上手く喰える」
アンタをと、ボソリと呟いたその声に、幸村はふと顔を上げた。
ブチブチと、筋が切れる音が生肉から聞こえる。
「手伝ってくださるのか? 政宗殿は相変わらずお優しい」
政宗の真意を知らない幸村は、彼の優しさに潤んだ瞳を細くする。
初めて浮かんだ笑顔。
「折角のお申し出なれど、佐助に全て某が食せと頼まれたのでござる。佐助の最初で最後の我儘ゆえ、某はそれを叶えたい」
そっと、肉塊の胸を見つめる幸村。
政宗は彼の瞳をえぐり取り、そのまま口に入れたくなる衝動に無性に駆られた。
「佐助は最初に食べられるのは心臓がいいと、そう申していた。だから、それだけでも最初に食べねばと思っておりました」
最初の部位を食べ切り、幸村は憂いを含めた瞳を政宗に向けた。
「……政宗殿。貴殿の瞳に、今、某はどのように映っているのでしょうか」
どこか哀願するような幸村の表情に、政宗は言葉を失っていた。
心が確実に壊れていく。
その美しさに魅入られていた。
「こうして人の肉を食らう某は、もう人ではござらぬ」
そう悲しそうに政宗に微笑む幸村。
全てを手に入れたいと渇望した人間をこうも綺麗に壊したのは、己ではない。
その事実が、気も狂わんばかりに疎ましい。
「地に墜ちた某は、貴殿の好敵手とは最早言えぬ。……なれど。政宗殿、某は貴殿に殺されとうございます」
幸村は膝で己の身体を支え、血塗れの指で政宗の手に触れる。掴んだ彼の手を己の首に持っていく。
「人で在るうちに、某の息の根を止めてはくださらぬか? 政宗殿、貴殿の手で。無理を言っているのは重々承知。某の最初で最期の我儘でござる」
政宗の指が触れた首は、少しでも力を入れれば折れてしまいそうなほど細い。
静かに政宗の言葉を待つ幸村。
そんな彼の背後にゆらりと揺らめく緑色の気配を感じて、政宗は吐き気をもよおす。
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