死の勝利5
「佐助と約束したのでござる。佐助が某よりも先に死ねば、某が佐助の身体を食べると」
どこか遠くを見つめながら口を開く幸村。
「最初は冗談かと思い申した。それに、影である佐助が死ぬる時は某も死ぬる時だと思っていたので、佐助との約束を受け入れたのでござる」
ポツリポツリと言葉を紡ぐ幸村の口からは、飲み込み切れない肉塊が現れた。
「この戦で、某もお館様と佐助と共に戦い抜くつもりであったのに……」
そこまでいうと、彼は強く唇を噛んだ。
「あやつは、戦に勝つことよりも某を生かすことに必死であったように思うのです。某にとってはお館様や佐助、武田の者たちと最期まで共に在ることが大切であったのに」
彼の口元から新しい血が滴る。
首にまで紅を伝わせるその幸村の姿を、政宗は綺麗だと思った。
「こんな……、こんなことをするために、生き延びてどうするのだ。できるならここに在る佐助の亡骸だけでも手厚く葬りたい。しかし、食べられるため佐助は某の元に戻ってきたのだと、佐助をここまで運んだ忍まで言うのだ」
ぐっと歯を食いしばり、嗚咽を堪える幸村。
誰よりも真面目で道徳を重んじる彼のこと。
人肉を食べる。
まして、最も信頼のおける忍の身体を食べなければならない今の状況は、生き地獄と言わずして何というのだろうか。
涙を隠して、幸村は再び佐助の遺骸に唇を寄せる。裂かれた肉を噛み、顎を引いて引き千切る。
必死に噛み砕こうとするが、身体が受けつけずに何度もえずく。それでも、彼は咀嚼を止めない。
それは、彼のために死んだ忍の最も望むことを行うという佐助への餞だけだった。
苦痛に顔を歪ませる幸村。
その様子を、ぞっとするほど暗い瞳で見つめる政宗。
幸村は、完璧に佐助を喰いきるだろう。
どれほど時間がかかろうとも、例えその身体が腐ってこようとも、彼の燃える信念のみでその全てを身体におさめるだろう。
料理もせず、その見苦しい生肉のまま。
不味い不味いその男の肉を。
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