死の勝利4

 戦場になっていなかったため、上田城内はとても綺麗に残っていた。誰もいないことをのぞいては、今迄政宗が訪れていた時となんら変わらない。

 佐助の手紙にあった虎の間を探して政宗は歩いた。土足で城内を歩く。

 踵が床を傷つけ、ミシミシと不安定な音を立てる。


 ふと、血の臭いがして、政宗はその方向に顔を向けた。焦がれていた気配を、かすかに感じる。


「幸村……そこか?」


 近づく度に強くなる血と虎の臭い。

 そして、ぐちゃぐちゃと肉が裁断されるような音も聞こえてくる。


 確信を持って、政宗は目の前にある襖を開ける。

 そこには、

「政宗殿……?」

 口の周りを血で真っ赤にさせた最愛の人が座っていた。


「真田幸村……、それは、一体?」

 驚愕する政宗を見て、幸村はそっと睫毛を伏せた。


「軽蔑、されるでしょうな。このような姿、政宗どのには見られたく……なかった」


 悲しそうに呟く幸村の言葉に対し、必死に首を振る政宗。

 しかし、否定の言葉は喉の奥に張り付いて出てこない。


 今、幸村がしていたことは、己が幸村に対してしたいと常に望んでいたことだったから。


「アンタは、猿のことが……?」


 幸村の前には、佐助の遺体が横たわっていた。


 傷だらけの身体に染みつく黒ずんだ血が畳を汚している。

 血塗れで、所々が傷だらけで、身体にある筈の所にない部分があるにもかかわらず、その顔は穏やかで喜びに満ちていた。


 彼の上半身は服を纏っていなかった。良く鍛えられたしなやかな身体。

 その胸の箇所がえぐられている。丁度、心臓が在った所はポッカリと穴が開き、真っ赤な鮮血が泉のように溢れている。


 まだ新しい、できたばかりの創。


「お前はこの男を……、喰いたかったのか……?」


 絶望に満ちたその言葉を聞いて、幸村は再び誤解をする。

「信じてもらえないかもしれませぬが、それは断じて違いまする。このような、外道な姿をご覧になれば某の言葉を全で偽りに聞こえるでしょうが」


 かすれる声で答えて、幸村はそっと佐助の頭を撫でる。口と同じく血塗れの手が髪を紅くする。


 その姿を見るだけで、政宗の心は虚ろな声を上げて死んでいく。

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