死の勝利3

 其れから後、政宗の耳に甲斐が亡んだという報せが入った。

 武田の武将である幸村も立派に戦い、討死したと。


 半狂乱になった政宗は小十郎が止める腕を押しのけて馬に跨ろうとする。

 そこに、真田の家紋を纏った忍が音もなく現れた。


「ご安心ください。幸村様は生きておりまする」


 馬に跨る政宗の前で、忍は静かに語った。

「長…佐助様が幸村様を匿い、幸村様の姿になって戦に出ましたゆえ。討死されたのは、幸村様ではなく佐助様。……これを」


 何故、己にそのようなことを報告するのかと怪訝な眼差しで己を見る政宗に、忍は懐から手紙を取り出した。

「佐助様からの手紙でございます。武田が亡び、兵も全滅したとなれば幸村様の身を護れるのは政宗様しかいないと。このままでは、幸村様は落ち武者として農民の手にかけられてしまいます」


「アンタはこれからどうする?」

 瀕死の重傷を負っているのは明らかな忍に政宗は尋ねると、忍はそっと微笑んだ。

「命を果たした今、先に旅立った仲間の元へ行くまで。私が与えられた命は、長の亡骸を幸村様の元へ届け、あなた様に長の手紙を届けることでした。これで、ようやく……」


 最後まで言わずに姿を消した忍。


 政宗も手紙を一目見て、そのまま馬に鞭を打った。




「嫌な手紙を送りやがる」

 馬を走らせながら、政宗は憎々しげに舌打ちする。


 佐助からの手紙はとても簡素なモノだった。戦中にしたためたのだから無理もない。政宗が不愉快に感じたのは、その内容。


――旦那。こうなったことを悲しまないで。俺様は必ず旦那の元へ帰るから。旦那が隠れている、上田城の虎の間に。だから、その時は、俺様との約束を守ってね。その約束があれば、俺様は死んでも平気なんだ――


 書き手の名前を書かなかったのは、幸村ならその文字で相手を判断すると分かったからだろう。

 佐助はわざと幸村に渡したのと同じ内容の手紙を書いて政宗に送ったのだ。幸村にだけに送るのなら、わざわざ隠れている場所まで記したりはしない。


「どういうつもりだ……?」


 嫌な予感がする。

 死んだ人間は生きている人間を脅かすことはない筈なのに、無性に感じる胸騒ぎが政宗の心を急かした。

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