スウィートロングラン2



「………」
「幸?」

ぼぅっと惚けた顔の幸村を不思議そうに見る慶次に、当人は「あ、いえ…っ」と手を振り、


「ありがとうございまする…大変だったでしょうに」
「いやー、いつも俺が汚してばっかでさ」

慶次は苦笑し、


「俺、家のことロクにできねぇで…だらしねーとこばっか見せてんなぁって。洗濯もお前のが上手いからって、任せっきりにしちゃってるし。これじゃ、いつ愛想尽かされても文句言えねーよ」

「そんな…っ!洗濯は、某が去年寮だったお陰で…他はとんとできませぬし。……で、あるゆえ、その…」

幸村は口ごもると、料理を示して、「まだまだ未熟ですが…」


(え──)


慶次は目を見開き、「…まさか、これ作ったの幸!?」


「味は、…あっ!」
「──うっまぁぁ!!や、ホントに!すっげー旨ぇよ!えっ、マジで幸の手作り!?こんなの、いつの間に作れるようになったんだっ?」

「ぁ、ぅ……や、…じ、実は……」

褒め言葉に、また頬を赤らめる幸村だったが、「少し前から修行を…」

この界隈の公民館の、安い費用のみで参加できる料理教室へ通っていたらしい。(幸運にも『独身男性のための…』コースがあり、堂々できた)
当然の如く、慶次の顔は感動に満ちあふれていき、


「ゆきぃぃ!!」
「(むがっ…)」

またもしっかりと抱かれ、幸村の顔が慶次の胸で潰される。


「じゃ、俺ら全く同じこと考えてたんだな?お互いのために〜ってさ。…さっすが俺らだよー…これぞ、相思相愛・以心伝心・阿吽の呼吸ってやつだねぇ」

慶次はうきうきとした調子で、そう感じ入ると、


「ありがとな、幸っ!俺も、すぐ風呂入れて来っから!」
「あっ、こちらこそありがとうございまする、慶次殿──」


…ちゃんと耳に届いたかどうか。
後でまた言っておこう、と幸村は食事の温めの方へ移った。


“──全く同じこと考えて……”


さっきの慶次の言葉が浮かび、一瞬だけ手が止まったが、すぐにまた戻る。

夕食中も料理は慶次の饒舌で絶賛され、落ち着かぬ心地にさらされながら、幸村の笑みも絶えることがなかった。



…と、そこまでは、大変ラブラブな時間を過ごしていた二人であったのだが…














(あのポップ、絶対詐欺だ…騙されたぜ、くっそぉ…っ)


もうすぐ翌日になるという頃、慶次はベッドの上で溜め息を洩らしていた。

部屋の照明は消し、明かりは枕元の小さなライトのみ。布団に広がる自分の髪を弄びながら、ちょっと前に見たあの顔を思い出す。


『なかなか…でしたな』

少し引きつった笑みを浮かべ、『…では、おやすみなさいませ』



(だー…)

明日は、思っきしリベンジしてやる!そう誓うと、慶次は目を閉じた。


何かといえば、幸村の入浴後、慶次が事前に借りていた映画のDVDを観たのだが、


『やっぱ、夏ならこーいうのだよな!』

ということで、ホラー物をチョイス。(店の紹介ポップに『店長オススメ!』とか、すごく良さげに書かれていたので)

スプラッタ系ではなく、緩やかな展開で、異形の者の姿が最後の方まで現れず、ふとしたときにグロいシーンが出たりと、結構不気味な内容のもの。
焦れる思いで、ラストを待っていたのだが、


(え゙、こんな終わり方ぁ…!?)


やりきれなさに眉を寄せた後、幸村の表情を見て、さらに落ち込んだ慶次だった。




──コンコン


「幸?」

ノックの音にベッドから起き上がり、ドアを開ける。…が、幸村は浮かない顔で、何故か突っ立ったまま。


「………」
「どした?何か言い忘れ?」

「…あの……」

幸村は下を向くと、「わ、笑わないで、頂けまするか…?」

「へ?」

慶次は頓狂な声を上げたが、幸村は既に恥じらいに押し潰されそうになっているのか、これで笑いでもしたら、家を飛び出してしまうかも…

慶次は、「ぜ、絶対笑わない!」と力強く誓った。それを受け、幸村は決心したように「実は…」


「眠れませんで……先ほどの、映画…」
「映…」

「………」

完全に俯く姿に、慶次の頭は彼なりの高速回転を始める。


(幸…、ホラー駄目だったんだ…!?)


新たな失敗に、慶次のショックは積み重なるのだが、


(──怖いから、一緒に寝てって…)


いつもならあり得ない行動だし、考え、望んだ試しもない。だからこそなのか、笑いなど起こりもせず、それでごまかそうという気にもならなかった。

幸村に想いを打ち明けたときと同じくらい、ただ緊張し、動悸が忙しくなるばかりの慶次である。



「ちょ…ちょーど良かった!俺も、ちょっと怖くてさ…っ、よしっ、んじゃ布団運ぶか!」

あははは、と明るく(ぎこちないが)笑いながら、慶次が部屋から出ようとすると、


「幸…?」
「……」

幸村は片手に自分の枕を持参しており、そのまま慶次の部屋へ入った。
そして、


(ゆ、幸ー…っ?)


ぽふっと枕を慶次の分の隣に置くと、幸村はベッドの端の方にコロリと横になる。

『!』と『?』が入り乱れ、慶次はこの状況の理解に苦しむのだが、


「お、俺が幸の布団で、下で寝れば良い…、のかなぁ…?」

「慶次殿…」


(ひっ…ぇ…)


じっと切なげに見てくる幸村に、悲鳴を上げそうになる慶次。

…観念してドアを閉め、恐る恐る隣へ横になった。



「──あ、暑くない?温度下げよっか?」
「いえ、ちょうど良うござる」
「そ、そか。…あ、邪魔だよな、ごめん」

ほどいていた髪を結ぼうと、ヘアゴムを取りに起き上がる慶次だが、


「邪魔ではござらぬよ」
「…そう」

手を取られ大人しく戻ると、幸村は慶次の髪に指を絡め、「気持ち良い…」と小さく吐息を洩らした。

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