飛び越えられたボーダーライン2
…………………………
・朝・
「おっはよ〜、旦那!起きるの待ちきれなくて、来ちゃった。朝ご飯、スパニッシュオムレツにベルギーワッフルだよ。たまには洋食も良いでしょ?もちろん、ワッフルも俺様の手作り♪メープルシロップとミックスベリー山盛りで、絶対気に入ると思うんだけど…ハイ、味見」
↑幸村の布団の中で、起きるのを待っていた。味見=モーニングきっす。
・昼・
「今日も残さず食べてくれて、ありがと!──ああ…そりゃ当然でしょ、隠し味は旦那への愛だからねぇ。ま、全然隠せてないんだけどさ。あ、付いてるよ?ここ」
↑素早く幸村の唇を奪い、デザートのチョコを口移し。チョコが溶けるまで離さない。
・夕・
「今日は、久々にカレーだよ。…そういや昔、旦那が作ってくれたじゃん?大将が仕事で二人だけの日にさぁ、『いつも佐助が作ってくれるから』って。俺様、すっげぇ嬉しくて泣きそうだったよ。もー、勢いあまってコクるとこだったんだけど、何故かお腹壊しちゃって──あれ、旦那?何で?俺様、何か悪いこと言ったっ?」
↑落ち込む幸村に、人前では絶対に見せないテンパりよう。
・夜・
「…何だ、そういうこと。もう、旦那ってば可愛過ぎ…それ旦那じゃなくて、古かった肉のせいじゃん。てか、捨ててなかった俺様のせいだし。それに、旦那が作ってくれるんなら、どんなものでも嬉しいしさ。傷んだカレーでも、炭になった焼肉でも、酸っぱい肉じゃがでも、究極、噛んだ後捨てるガムでも──」
↑再びこじれるが、最後には佐助の泣き落としでイチャイチャへ。
・休日・
平日の佐助の言動や行動が、倍以上に。
![](//img.mobilerz.net/sozai/1645.gif)
(ゔぅ……これは、いわゆる「のろけ」なのでは……)
幸村は、赤面しながらもありのままを話したのだが、政宗に「当て付け」てしまったのではないだろうかと、首をすぼめていた。
「あの、政宗殿…」
「──…」
恐る恐る窺う幸村に、政宗は険しい顔で肩を震わせると、
「きっっっっもい!!!!!」
──ばっさり、一刀両断。
「え、あの…」
「おぇぇぇぇ゙…!!Jesus…っ!幸村、お前どんだけヒデェ目に…ッ」
「へ…」
予想とは反する政宗の反応に、幸村は目が点になるのだが、
「想像するだけで、…うッブ。…やべぇ、あいつ存在だけで人殺せる…!幸村、よく今まで無事だったな…っ」
「ふわっ?まっ、政宗殿ッ?」
よしよしと、抱き付かれる勢いで頭を撫でられ、幸村はあたふたとなるばかり。
「小十郎が、一層男前に思えてきたぜ。いや、前からそうなんだが…。てか、それに比べりゃ、俺の愚痴なんか小せぇどころじゃねーな。俺、全然マシだった…thank you、気付かせてくれてよ」
「は、あ…、い、いえ…」
幸村は、目を白黒させながらも、
「ま、ぁ……毎日、恥ずかしゅうて敵いませぬが…」
「恥ずかしいレベルじゃねーよ、もう。てより、痛々しいの間違いだろ」
「はは…」
苦笑で返す幸村だったが、内心では『普通とは違っていたのか…』と、ヒヤヒヤものであった。
政宗に話を合わせると、その内彼の鳥肌も治まってきたらしく、
「しかし、飯の話ばっかだな、お前ら」
「──あ…!」
言われて、幸村は何かを思い付いたようで、明るい顔を政宗に向けると、
「政宗殿、料理を作ってみられてはっ?」
「Ha?」
唐突な言葉に、政宗は不意を突かれるのだが、
「先生に、料理を作られたことはありまするか?」
「…いや、そういやねぇけど」
幸村は顔を輝かせると、
「やはり…!家では作らぬと仰られておりましたが、調理実習で、見事な腕前だったでしょうっ?ですから──」
「Ahー…」
小十郎が、まさか佐助のような反応をするわけがないとは分かりきっているが、
(喜びはするかもな…)
少し…いや、結構乗り気になる政宗だった。
「先生、きっと喜ばれるかと。…某、いつも佐助の料理が嬉しくて……美味しいだけでなく、…か、『隠し味』が、伝わってくる、と言いますか、その…、なので、えと…」
(…そっちかよ)
てっきり、幸村が作ったときの佐助の感動を小十郎に、という意味だと思っていたら。
この佐助の幸せ振りには、「ペッ!」と吐き出してしまいたかったが、
「良いかもな。せっかく、お前が考えてくれたんだ……今度、試してみるわ」
「はっ、はい…!」
褒められて喜ぶ子供のような笑みに、政宗の左目も細くなる。
それから佐助が来るまでは、彼の気持ち悪さと幸村の不憫さについて、延々説明してやったのだった。
(…我ながら、あっぱれだぜ)
食卓に並べた数々の料理に、政宗は自画自賛、感嘆の息をもらす。
しかし、それも許されるだろうほどの出来栄えで、見た目だけでなく味の方も完璧だった。
メニューは、完全和食。
旬野菜の天ぷらに、肉じゃが、イカ大根、酢の物、味噌汁…(肉じゃがは幸村の忠告を踏まえ、みりんと酢を間違えないよう、重々注意した)
初めて作ったも同然なのに、この完璧さ。
酢の物は冷蔵庫へ入れ、それ以外はラップをしておく。
(あと一時間くれぇか…?)
今日は土曜日で、家が雇っているコックには暇をやった。
父親は仕事で不在、同じく朝から仕事に出た小十郎を見送った後、買い物に出かけ、ゆっくり調理できたというわけである。
土曜なら、小十郎は夕方六時頃には帰ってくる。
政宗はソファに横になり、少し休むことにした。
(…ったく。すっかり先越されちまってたな……)
あのときは、佐助の「おぞましさ」でツッコみ損ねてしまったが──彼らが、口付けを交わす仲にまでなっているという、現状。
佐助の性格から予想はついていたものの、どうしても『俺らの方が、先にくっ付いたってのに…』と思ってしまう。
(手なんか、ガキの頃以来繋いでもねーし)
恐らく彼は、政宗が高校を卒業するまでは、一切手を出さないつもりなのであろう。
政宗も、それを誓った彼の性格をよく分かってはいるのだが。
「………」
段々瞼が重くなり、政宗は音が耳障りになったテレビを消した。
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