スローペースな二人6
(う──…)
目が覚めると同時に頭がクラッとし、身体中の痛みに顔をしかめた。
どうやら、下はベッドであるようだが。
「起きたか」
「…政宗……」
自分を見下ろす彼の背後をよく見ると、自身の部屋ではないことにも気が付く。
「病院だよ。文化祭は終わっちまったぜ?」
「…ワシは、どうして……」
家康は軽い混乱に見舞われるが、すぐにハッとし、
「真田はっ?お前が見付けてくれたのか!?」
「Ahー…やっぱお前、覚えてねーのか…」
「あ、あ……途中から、記憶が…」
額を押さえる家康に、「そうか…」と苦悶の表情を浮かべる政宗。
家康は、『まさか、真田に何か…?』と不安が湧くのだが、
「…落ち着いて聞けよ?」
「あ、ああ…」
ゴクリと固唾を飲む家康に、政宗は眉を寄せ、
「俺らが倉庫を開けたときにゃ、もう遅かったらしい。…幸村は、下着と乱れたシャツ一枚の姿で、泣いてた──お前の身体の下でな」
「…………………」
家康は、石化した。
ぴしぴし、パラパラという音を立て、頭の先から砂になり崩れていく。
「『やめてくれ、離してくれ』って、外まで悲鳴が聞こえてきてな…開けた途端、『助けて下され!』って叫んで。あんなに泣いてるあいつを見たのは、初めてだったぜ」
(そんな……)
自分は何を、と家康は頭の中も固まっていく。
…いくら、幸村が猛烈に可愛かったとはいえ。あの笑顔や潤む瞳、肌に伝わる温もり、白い項…
──思い当たることばかりしか、浮かばない。
家康の顔は、もはや無と白でしかなかった。
「キレた元親が、病院送りにしちまった。本当は、俺だってやってやりたかったがな」
「ワシは、どうして…」
「Hum……あの倉庫、悪ィもんが溜まってんだってよ。姫に聞いたんだが」
「悪い…?」
「悪霊的な。とり憑かれちまったんじゃねーの?運が悪かったな」
「………」
家康は呆然としたが、
「真田に謝らせてくれ…何が理由でも、ワシがしたことには変わりないし、許されない…」
「……」
政宗は、黙って家康をただ見つめていた。
「…だが、悪いがやはり諦め切れない。こんなどうしようもない奴なんだが、どうしようもなく好きで……大事にしたいんだ…」
なのに矛盾している現実に、家康の口はかさつく。
「Hum…」ポツリこぼすと、政宗は静かに、
「んじゃ……これから一生、一度でもあいつを泣かせたりすんじゃねーぞ」
「──え、」
政宗の急な口調の変わりように戸惑う家康だったが、『ガラッ』という音とともに、
「っ!徳川殿、気付かれたのですな!」
と、幸村が病室に入ってくる。
「さ…っ」
「政宗殿、お帰りで?」
「Ahー、慶次たち下で待ってんだろ。また明日出直すわ。じゃ、お大事にな」
「あ、ありがとう、政宗…」
ぼんやり見送り、部屋には家康と幸村だけになる。
「真田、す」
「良かった、徳川殿…っ!」
(……え、)
身体を起こそうとしたが制され、しかも優しく手を握られ、家康は目を見張った。
幸村は、そんな様子など気にならないようで、瞳を潤ませると、
「心配しましたぞ…ッ!肺炎になる一歩手前だったと──本当にすみませぬ、某のせいで…っ」
ぐすぐすと鼻をすする幸村に、家康はまたもポカンと固まるのだが、
「お加減はいかがです?先生は、ゆっくり休めば大事ないと…何度か目を覚まされていたらしいですが、夢うつつだったようで」
(…は、肺炎…?)
じわじわと頭が働き出し、幸村に事情を尋ねてみると…
熱で意識が朦朧となり、幸村に倒れ込んだ後、頭を下げながら『やはり、ダウンジャケットだけ貸してくれ』と懇願してきたらしい。
慌てて幸村は腰のジャケットを返し、彼の容態の悪さに気付いた。
で、彼から離れて服を脱ぎ渡そうと考えたのだが、それを悟った家康が再び覆い被さり、『離して下され!』と何度叫んでも、離さなかったのだと。
『寒くないか?自分は大丈夫だから』と、うわ言のように繰り返して。
そして、家康の身の危なさに涙があふれてきたところで、政宗たちが駆け付けてくれた──
「徳川殿のお気持ちは嬉しかったですが、本気で恐かったですぞ…。某、寒さには強いのですから、…」
「すまなかった…」
じゃあこの痛みは、熱のせいか…と納得すると、家康の力は抜けた。
「…政宗に一本取られたよ。よく考えれば、おかしい話なのに……ワシは、やっぱり駄目だな」
そう苦笑すれば、幸村も強張りを解かして、
「そんなことはござらぬ。某も、しょっちゅう政宗殿たちに、何本も取られておりまするよ。…似た者同士ですな」
「あ、…はは……そうか…」
何気ない言葉であるのに、家康の耳にはすこぶる甘く響き、胸が跳ねた。
昨晩は暗かったので、改めてその姿をはっきり目にすると、そうなってしまうのも仕方がないかと、早々に諦めるのだが。
「それに、某も感謝しておりまする。…あの『役目』のお陰で、こうして……」
(真田……)
目を伏せながらも嬉しそうに笑い、顔を赤らめる彼。
家康は、握られた手の上から、もう一方をそっと重ね、
「約束するよ…これからは、絶対にあんな思いはさせない。『嫌われているかも』『死んでしまうかも』──それが、些細なものだったと思えるくらいに。
もう二度と、泣かせやしないから…」
「徳川殿…」
幸村は精一杯の力で視線を上げたが、胸と同じで言葉にも詰まる。
「嬉し涙は、別にして下され」
どうにか笑ってそう言うと、家康の腕に強く引かれ、病室はそれきり静かになった…。
‥余談‥
「なぁ、誰だっけ?最初に『家康と幸村を仲良くさせようぜ』っつったの」
「元親」
「…お前も賛成したじゃねーかよ。『したら、五人で気兼ねなく遊べるし!家康と幸、絶対仲良くなれると思うんだよね〜』」
「Ahー…そうだな。んで、お前が言い始めたんだよな?『幸になら、真面目に答えるかもな?恋愛のこととか』」
「俺は、思ったこと全部口に出しちゃう奴なの!知ってんだろっ?長い付き合いなんだからさぁ!で、それにノリノリで乗っかった奴は、誰だっけ!?」
「俺だよ、Shiiiiit!!!分かってんよ、全部俺のせいだよクソがぁぁ!!幼なじみっつー最高のカード、使うチャンス自ら潰しちまった!!俺ァ宇宙一大馬鹿だよ、Ahhhhhhど畜生ォォォ!!!」
「分かった…分かったから、頼むから、叫ばないで?それか、俺だけ別の道で帰って良い?二人で、仲良く海とかで叫んで来れば…」
「元親、今日はずっと付き合うっつったよな?俺、とりあえずカラオケ行きたい」
「Ha、しゃーねーな。で、そん次はバイクな。元親、慶次乗せてやれよ?」
「………」
…俺は、一体誰が慰めてくれるんだろう?
理不尽に思いながらも、いつものことかと諦める元親。
こんな奴らだが(自分を含め)、明日にはあの二人を明るく、またはCOOLに祝福するのだろうな──と、小さく笑った。
‐2012.6.3 up‐
お礼&あとがき
黒田様、相互ありがとうございます!
「家康と幸村のお話、内容お任せ」という素敵リクだったのですが…こんなものにしてしまい、本当にすみません(;_;)
あまりにも長いし、山も谷も小さい…捧げるのが心苦しいというか、頭が上がりません。黒田さんへの愛はとても大きいのに…!力及ばず(´`)
私は、家康リクもらえてすごく嬉しかったです。あまり書いてないけど、黒田さん宅の彼を見て「書きたいなー」と思ってて、期待もしてたので、「やった!」と。で、沢山妄想したんですが、この結果に。
家康は、佐助と同じく白も黒もやりたくなるので、今回もまた灰色チックになってしまいました。すみません、不安定で;
それと、他の三人も出したかったです(^^; 家康だと、やっぱあの三人にしてしまう。佐・三がいたら、確実に家幸は成り立ちませんし、就様がいれば尚のこと。
政・慶・親は、楽観的・お人好し・鈍感・愛すべきお馬鹿…な、私の勝手なイメージ^^
黒田様、こんな輩で申し訳ないですが、これからもよろしくお願いします。
本当に、ありがとうございました。
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