遅ればせながらの6
「さす、け……」
「………」
軽々抱き起こされ、幸村は佐助の胸の中にいた。
ベッドの上で、腰は下ろしたままの彼の腕に、しなだれるような形。
力が入らないので、そうするしかなかったのでもあるが。
浴衣をザッと羽織っていた佐助だが、胸元ははだけている。そして、幸村は裸同然。
今さらながら赤くなりつつも、身動きはもうしなかった。
「…同じだよ…」
「……え…?」
佐助は小さく笑うと、
「俺様はね、そうあろうと努力してんの。…旦那の気を引きたいから、『いつもより』格好付けてさ。…けど…」
「……?」
そこで止める彼の目を幸村が覗くと、佐助の笑みに溜め息が加わる。
「意識してない旦那のそれに、完敗だわ…。
…こっちだって、苦しくて…目眩してるし、旦那の方こそいつもより大人で、綺麗で可愛くて……だからだよ、必死で格好付けんの…」
「──…」
目を広げ、佐助を仰ぎ見る幸村。
前に抱えていた浴衣が下がり、腿の上に落ちた。
「…すっげぇ嬉しい……さっき、名前呼んでくれたでしょ?…あれもさ」
「ぁ……」
背に手のひらを回し引き寄せ、白い肩に口付けを施す。
ちゅ、と音を立て、次は鎖骨へと。
「『破廉恥』じゃないよ、旦那は…。そうなるのは俺様のせいで、俺が最も望んでることなんだから、恥じる必要はないんだよ。報いてくれただけ」
「…、…さ、…」
鎖骨から胸、腹へと下がっていく唇に合わせ、幸村の身体は傾いていき、最後にはまた同じ位置へと戻る。
上から覗き込む彼の顔は、何度も見てきた、あの…
「もっと見たい……旦那のそんな姿。我慢しなくて良い…声も、涙も、全部。…全部見せて。……全部頂戴……」
──その切願が叶うのは、それから間もなくのことであった…
…………………………………………
……………………………………
………………………………
……あ゙ー……眠ぃ…
と思いながら、どこかであったような…という気がし、ケータイを手に取ると、
(良かったー……まだ六時前…)
家を出るのは九時って言ってたから、これから朝飯と弁当作ってちょうど…
「──ってそりゃ、昨日だ!」
「ぬぉっ!?」
叫びざま起きると、隣にいた幸村が驚き声を上げる。
あっ、と佐助は彼に向き、
「あっぶねー…寝坊したかと思ってさ。旦那が寝惚けて開ける前に…ほら、大将来たらヤベーって」
「あ、ああ…」
幸村は、なるほど…と頷く。
「ね、シーツ大丈夫?」
「え?」
「いや、これ寝る前に洗ってさ〜、下に乾燥機あったっしょ?それで乾かしてきたんだけど。洗濯してたら時間かかると思って、洗面所の石鹸使ってさ」
「そ…そうか……す、まぬ、俺の…」
「いやいや!俺様のせいだし。…うん、大丈夫だな…」
が、佐助の語尾は小さくなっていき、
「…っあー……アホだ……」
「え?」
突然の落ち込みに、幸村はキョトンとするのだが、
「何言ってんだろね、俺様……昨日、あんっなに格好付けてたくせにさ。…起き抜けに『大将』、『シーツ』って。全部ぶち壊し…」
佐助はガックリとベッドへ沈み、はぁぁ…と自責する。
「………」
幸村は、しばらくそんな彼を見ていたが、
「…寝起きであれば、佐助でも隙ができるのだなぁ…。てっきり俺のために、わざとおどけてくれたのかと…」
布団の中の二人は、揃って浴衣を着ていない状態。
下着は新しいものに変わっていたが、それでも幸村にとっては、赤らめるのを回避できない状況である。
「…うん、まぁね。そういうことなんだけどさ」
「もう遅いわ…」
幸村がクスクス笑えば、佐助も苦笑するしかない。
「…ありがとう。俺もついさっき目覚めたのだが、まだほかほかだった。ぐっすり眠れたし…」
「そか、…良かった」
「………」
「………」
何となく無言になり、二人の視線はお互いのそれから、離れる。
「……ぁ…」
「シーツより温かいや」
佐助が幸村の片手を反対側のもので取り、向き合うように体勢を変えた。
幸村もそれに倣うと、指と指の間に、佐助の同じものが割り入ってくる。
「……俺様もさ、全然違うだろ…?昨日…」
「──…ッ」
脳裏に昨晩の顔が浮かび、幸村の頬は途端に熱くなる。
佐助はそれに目を細め、
「だから、旦那も気にしないでよ。昼も夜も、俺様はどっちの旦那にもメロメロですから。今まで通りに……で、まぁ…、お互い夜は我慢するのなし、って方向で」
よろしくお願いします、と頭を下げると、台詞に赤面しながらも、幸村は大人しくそれを受け入れることにし、
「わ、分かっ…」
『『ぐぅぅぅ〜…』』
「………」
「………」
あまりのカブりように、初めは、自分の腹を即座に押さえた二人だったが…
己だけではない、と分かると、同時に吹き出す。
…絡めた指が少し緩んだが、離れることはなかった。
「そーいや、昨日夜食ってない…」
「…だったな」
極めつけの色気のなさに、しばらく笑い続ける。
「せっかくだから、部屋の露天にも浸かろうよ」
「あぁ、そうだなっ!」
「今日も引き続き、酔っ払いたちの面倒かぁ…。昨日は旦那に任せっ放しだったから、今日は俺様、頑張りますよ」
「おぉ、良いのか?」
「だからって、バカ飲みしないでよ〜?」
「分かっておるわ」
そう明るく笑い合う姿は、『いつも』通りの両人であったが、昨日までとは確実に違う。
もう一極も手に入れた二人は、これから尚一層強く結ばれていくことだろう。
…それをどう掴んだのかは、彼らのみが知るエピソード。
「佐助ー…やはり、入らぬ……」
「えー、せっかくなのに?入ろうよー。気持ち良いって、絶対。…あ、変な目で見ないってば」
「…そうではなく、…」
幸村は、片手をベッドに着くが、
「『力』が、入らぬのだ……
腰も動かぬのだが、…筋肉痛であろうか…?」
「………」
下から見上げる瞳の純粋さが、佐助にとっては朝の光より痛かったのは、言うまでもない。
『酔って温泉で転んだ』との虚偽の不名誉を負わされ、さらには一日中佐助に抱えられ(もちろん姫抱き)、
幸村だけが、『もう一つの初めて』を思い知った以外は問題なく、旅行は無事に終わったということである。
読んで下さり、ありがとうございました!
*お口直し*
ネタに使わせて頂いた、さぎの様の素敵絵のご紹介です。(転載許可もらい済み)
〈※肌色率高し〉
@
熱血!漢祭り!まさか、旦那のソレ見られようとは、思いもよらずです(^m^)
A
まったり主従。…で、設定を四月へ。でも、よく見てみると桜じゃないかも(^q^)
B
↑からの、きゃっきゃ。身長・体格差、その他諸々萌え。
C
↑からの、むらむら。旦那の表情が、理想的過ぎてやばし。
D
サイト様の絵で、一番のお気に入り。これを絶対使わせて頂きたくて…撃沈でした。さぎの様、本当にすみません(TT)
E
すっげー幸せになれます。二人の笑顔が最高。指にもご注目(*^^*)
‐2012.4.28 up‐
お礼&あとがき
さぎの様、相互ありがとうございます!
「サイト様の絵から、自由妄想」…何て素敵なご提案(*^^*) 結果あんなことで、再び土下座させて下さい;
どの絵も素敵なので色々浮かんだんですが、一枚ではワンシーンにしか当てられないのが、どうにも口惜しくて。
そして、相互文なのだから、とほのぼの絵から妄想しようとするんですが、どうしてもあの一枚への思いが離れなくて。
で、ふんどし+嫉妬が出て、温泉シリーズも入れたいしで、「よし、許可を頂こう」となり。快諾してもらえ、ああなりました。
破廉恥って本当に難しいですな。私がやろうとすると、やっぱ長くなるしで。破廉恥がテーマなら、全裸から始めんとページ収まらなさそうです(-ω-) 気付けば、ろくにチュウさせてない(泣)
四月に実習とか、履修どうすんの…ってのはスルーで(^^;
あと、佐助は気にしないかもだけど、旦那は安全器具を着けないと嫌がりそうな…佐助の身体を思って。
二人旅だと思ってたから、佐助のバッグには、夜のお供が沢山用意されていたです。
どうでも補足、すみません;
さぎの様、こんな輩で申し訳ないですが、これからもよろしくお願いします^^
本当に、ありがとうございました。
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