遅ればせながらの5
蕩かされ力の抜けきった身体は、完全に佐助の為すがまま。
自分のそれに合わせ揺らめく、幸村の輪郭。
穿つ場所や速さを細かく変えれば、喘ぎと嬌声にも似たものとが、交差した。
後者を洩らす度、その頬の朱と瞳の潤みは増していく。
佐助の欲情も同じくで、溶かされているのが脳なのか包まれた箇所なのか、判別できなくなるほどだ。
全てが熱く、煮えている。
普段はほとんどかかないものが額から流れ、幸村の胸や腹に落ちていった。
担いでいた脚を下ろすと、佐助は半身を折り、幸村を抱き締める。
震える吐息をすぐにまた乱してしまいたくなるが、しばしの休憩が必要のようだ。
ただし、とるのは己だけ。
「…あぁ…ッ、…っ」
「すごいね……少ししか触ってないのに…」
「……っ…」
幸村の顔が、恥じらいと快楽に歪む。
二度も果てたが、内からの刺激により充分な硬度をもたらされたそこを、佐助の掌と指が舐めるように擦り上げていく。
わざと濡れた音を大きく立てるそれに、幸村は耳を塞ごうとし、…たのだが、再び始まった抜き挿しに、叶わなくなる。
色んなものが混ざり溜まったせいで、起こる音も聞くに耐えないものへと変わっていた。
幸村は泣きそうな顔で手を耳横に運ぼうとするが、佐助に手首を取られてしまい、
「ちゃんと、…聞いてな、よ…、旦那の音……でも、あるん…だからさ、ぁ…っ…」
「ぁッ…く…、…んぅ……っ!」
意地悪く上げる口角。と、
愉しむように笑う瞳。
激しい揺さぶりに喉が引きつる。
いつもの佐助ならば、どちらも考えられない行動だった。
どこまでも甘く優しくて、我を失いそうになる前には、幸村に深く詫びる。それが、過ぎ去った後でも。
このような彼は、初めてだ。
こんな………
その思考も白んでいき、身体の悦楽に飲み込まれていく。
「も…、っめ……さ、すけ…ぇ──ッ」
「……っ!」
刹那、低く短い呻きとともに体内へ訪れる、数回の痙攣。
その前に引き金を引かれ、幸村は三度目の頂きに達していた…
拳の一発……いや、十発は覚悟の上だった。
いつもは、幸村の性格や身体を思って自分は後回し。
前戯や後戯にかなりの時間をかけ、負担のかかる行為は、なるべく早く済ます。…のだというのに。
むしろ、殴られたかった。
痛くも痒くもなかったことだろう。…これに比べれば、何百倍も。
……………………
「旦那…」
「………」
幸村は、どこか遠くを見るような目で、口からは一言も発せられない。
両の目尻からは、とめどなく涙があふれ、枕のシーツを濡らしていた。
浴衣を掴み、素肌は適当に隠されている。
「ごめん……乱暴にして。ひどいことも言ったし…」
「──…」
佐助は、指でその涙をすくい、顔を歪めた。
「…でも、どうしようもないんだ。旦那を好きで好きで……分かってても、頭ついてかないんだよ。傍にいたいし、触れたいし…くっ付いて、離れたくない。離れられないように、したい」
「………」
潤んだ琥珀色の瞳に、佐助の苦悶の表情が、うっすらと映る。
「気持ち良いだけなら一人でもできるし、他の人とだって。…でも、俺は旦那としたいんだ。旦那だからしたいの。見たいし聴きたいし、知りたい。感じたいし、感じて欲しい。
…俺らは普通と違うんだろうけど、俺様は同じつもりで……大事な行為だと思っててさ。…まぁ、こんな性格だから、軽く見えるのは仕方ないんだけど」
苦笑いを浮かべると、幸村の頬を撫で、
「無理言ってごめん…。たださ、『破廉恥!』としか思われてないのは、辛いなぁって。
これ以外にも、俺様しか知らない旦那は沢山いる。でも、これは普通の友達同士じゃ、しないでしょ?だからこそ、二人だけしか知らないものが欲しくなるというか…」
「…さすけ……」
涙の勢いが少し治まったらしい幸村は、視点を佐助に合わせると、
「すまぬ……旅行の…。これから、気を付ける…」
ゲッ、と佐助は目をむき、
「いやっ、それはもう良いんだって!こっちもちゃんと確認しなかったし、だいたい旦那がそんな大胆なこと考えるなんて、普通ならあり得ないってのに」
だが、慌てる佐助に幸村は、「すまぬ…」と、再び謝り、
「俺は、恐れていた…お前と二人になるのを。…お前の言う通り…」
「あ、うん……それは、」
分かってたから、と続けようとするが、
「……俺、…俺ではない、…ようであろう?…だから…」
「え?」
見ると、幸村の涙は未だに止まらない。
佐助が拭うと、かえって量が増した。
「…こ、わい……どうなるのか、分からず……お、まえに、…どう思われる、のか、…それ、で…っ」
「だ、旦那?」
しゃくり上げ、ぼろぼろ零れる涙に、佐助は焦り出すのだが、
「…も、ちいぃ……んだ、いつも…っ、気が遠くなる、くらいにっ…、今日ですら、声を抑えた、方で…、それに、苦しくて……お前を見ると、頭がくらくらする。この涙も…」
うっ、ぐっ、と嗚咽を漏らしながら、幸村は涙を拭い、
「…いつも、優しくしてくれる……だから、いつもの、俺らしく、いたいんだ。…だが、叶わ、なくて……お前は、いつも以上に大人で、見られるだけで、目眩がするのに。…それで、直視できなかった、風呂でも…」
声をすぼめると、佐助から逃れるように、視線を伏せた。
しかも、
「いつもと違うお前でも、そうだった……
…破廉恥なのは、俺の方だ…」
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