遅ればせながらの4



「皆、旦那をそんな目で見てない……でも、すっげぇ見られてた。綺麗な身体だって、羨ましがられてたよ。俺様はさぁ、そんなんでも嫌なの。…無理なの。……あいつらの目ん玉、全部掘り出してやりたかったくらい」

「ぁ……す、け……」


「旦那の身体に他の奴が触った…汗まで。俺様以外の奴が、これに。…旦那は平気でも、俺は正気じゃいられない。知ってるくせに…」


「…は…っ、…ぁ、ぅ…っ」

口調は怒りと嫉妬に染まりながらも、与える指先は的確に動く。
弁解や謝罪をしたくも、幸村の口からは、それに対する喘ぎしか零れなかった。


「分かってるよ、旦那がこういうの苦手だっての……いつもはぐらかして、『普段通りの俺ら』にしようとしてるもんな。さっきの風呂でも、俺の視線に気付いてわざと目をつぶってたし。やたらとはしゃいでたのもさ」


「ぁ……」

佐助の手が止まり、幸村は恐る恐る目を開ける。…が、視界が滲み、彼の顔がよく見えない。


「だから、本当ならもっとこうしたい気持ち抑えて、すげぇ自制してんだぜ?──なのに、アンタって奴は…」

佐助は少し目を閉じ、何かに耐えるように眉を寄せた。

が、すぐに開け、


「…今日は、何言われたって絶対止めない。旦那が分かり尽くすまで、……ずっと離さないから」


両瞳の奥で静かに燃える、暗緑の焔。



……喰らわれる。


そう思った次の瞬間には、抗えぬ熱に全てが飲み込まれていた。
















止まないベッドの軋む音。


逃れようと、大きく柔らかい枕を抱え顔を埋めてみても、しっかり下から震音が伝わってくる。

羞恥に目が滲み、枕が濡れる。
しかし、それ以上に声が洩れようとするので、唇を押し付けている部分の方がひどかった。

声だけでなく、口内で湧いた水まで溢れ出し、ぐちゃぐちゃになってしまっている。
揺らされる度に頬までべったり濡らされ、乾いた箇所で拭いたくも、そんな機会は全く巡ってこない。


…顔が見られない体勢で、まだ良かった。

幸村は膝を着く力も入らず、佐助に腹へ腕を回され、ほとんど抱えられた状態だった。
さらに項や背中に唇や舌を這わされ、歯を立てられるので、彼の身体は沈み込む一方で。

だが、そうなるごとに腕をぐん、と引かれ、より深く貫かれる。
既に一度果てたのだというのに、幸村の身体は先ほどよりも、与えられるものに従順になっていた。


「…っは、もっ…、…く…」
「ぅあッ…」

限界が近付いたらしく、佐助の動きが荒くなり、軋む音も高くなる。
数度、それまでとは桁違いの速さで前後した後、短く息を飲み止まった。


「は…っ…、ぁ…」
「…っふ、……ぅ…んッ…」

佐助が離れると途端に両脚が重くなり、ゆっくりとベッドに下ろされる。

素早く自分の後処理をしたらしい佐助はすぐに戻り、ぐったりとなった幸村の身体の傍に座し、再び背に唇と手で触れた。


「や、…ぅ…」


「……旦那の背中、真っ赤になっちゃった。昼間は白くて…綺麗だって言われてたのにね」

カリ、と歯を立てると、びくりと幸村の背がしなる。



「すっげー色っぽい…」



(…っ…)


静かだが熱い声で囁かれ、幸村の腰の辺りが切なく疼いた。

最後はもうよく分からない状態だったのだが、どうも、二度目の熱も放ってしまっていたらしい。
そっとしていて欲しいところに、直接的ではないのに強く効く刺激を与えられ、幸村は身を丸め枕にすがり付く。





「……!?」

弾かれたように幸村が顔を向けると、佐助はまだ少し上気した頬で、それに目を細めた。

…つい先ほどまで散々解されていたそこへ、彼の指が容赦なく入り込んでいる。


「ぅぁッ…、さっ、…す…」
「…言ったじゃん、離さないって」

「や、ぁめ…っ」
「だいじょぶだって、もう着けてるよ」

「…な…ッ!?」

その言葉に唖然としていると、素早く身体を仰向けに変えられた。
自分に跨がる彼の状態に、幸村は軽く血の気が引く。


「さっ、…あぅ…ッ!」
「…あ、ごめん。ちょっと強かったね」

「…っ、…ぁ、はァ…」

強い、のかどうなのかも分からない。
全身が強張り、頭や視界まで白むような快感に、幸村の力は完全に奪われてしまう。

しばらく緩い刺激を与えられた後、指が抜けていき、


「──…っ…」
「…、く…」

初めは苦しげに眉を寄せる佐助だが、押し進め安定すると、短く一息を洩らした。

すぐに動き始めると、額や頬、鎖骨や胸などに、唇と甘噛みを落としていく。



「…ぁ、ぁッ…っぁ、ぅあ…」

「っ……、んな…、っ」

徐々に速まるそれに抑えられなくなり、二人の切羽詰まった声が絡み合う。
幸村は目を閉じ、片腕を額にかざし顔を隠すが、


「よっ、と…」
「っ…!?」

急な腰の浮遊感に腕を外し見ると、自分の状況に凝り固まる。

──片方を佐助の肩に担がれ、幸村の両脚は大きく広げられていた。


「ななな何を!?やめっ、ふざっ…ッ」

だが、それを黙らせる一突きに、幸村はあえなく敗北。

佐助は、ククッと喉奥を震わせると、



「良い眺めー……」


担いだ脚に軽くキスをし、恍惚の表情で見下ろしてくる。
幸村の抵抗を淘汰するためもあるのか、動きは止めることなく。


「そんな顔しないでよ。…もっとしたくなっちゃうじゃん」
「ぅあ…っ……」

「っ、ちょ旦那……嬉しいけど、…加減して」
「なに…っが、んん……ッ」

ビクッと喉をのけ反らすと、幸村はくたりとベッドに沈む。
最早抵抗する気すら奪われ、背がしっかり着いたことにより、腰はさらに浮いた。

佐助は今一度幸村の脚を抱え直し、二人が繋がっている箇所を陶然と見つめる。


…普段の姿からは、想像もつかぬその表情。

目の下を染め、瞳は油でも差されたかのように、ギラギラと光る。

幸村とは違い、羞恥からのものなのではなく、秘めていた欲とそれへの興奮による変貌。



(──……)


佐助の視線が上がっていき、幸村のものとぶつかる。

上唇を舐める舌の紅さに何もかもが囚われ、幸村の胸がずくりと疼いた。

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