三年目の○○○?4
(今日は、外で食べよ…)
出張が意外と早く終わり、夜の九時前には帰って来られた佐助。
一旦荷物を置き、着替えてから再び出ようと、玄関の鍵を開ける。
「お帰り。早かったのだな」
「………」
正真正銘、言葉を失う。
──今日は、学祭の最終日。打ち上げで、遅くなるはずだと…
「俺は裏方であるし、別に出席せずとも大丈夫なのだ」
佐助の考えを読み、幸村は彼の荷物を取り、部屋の中へと引き入れる。
「飯も温めればすぐ…、風呂も沸いておるし、…だが、その前に…」
幸村は佐助の方を向くと、
「すま」
「ごめん!!」
はっ……?
声がかぶり、呆けた顔を見合わせる二人。
「『すまぬ』と…」
「いやいや、何で?謝るの、俺様の方じゃん。振られても、文句言えねーくらい…」
「なっ!?あるわけ…ッ」
また激昂しそうになり、幸村は慌てて口をつぐんだ。
「──…」
そんな彼を前にし、佐助は顔に感情を取り戻していく。
「や、ちゃんと謝らせて…」
と、何故あんな馬鹿なことを口走ってしまったのか、訥々と話した。
………………
「旦那は特別なんだ…、こんなの初めてで、だから、勝手に旦那もそうだと思っててさ。俺はもう、旦那以外目に入んない。…けど、旦那はそうじゃなくても、全然おかしくないのに。俺様以外と付き合ったこともないんだし、好きでもなかった奴にさ、こんな…」
「な、」
幸村は目を丸くし、
「何を申すかっ!?いくら無知でも、そうでない相手と交際したりせぬわ!であれば断っておったし、それまでもずっとそうしていたっ。お前に言われて頷いたのは、当然──」
真っ赤になり、そこから先は留めてしまう。
…だが、佐助には充分過ぎるほどだった。
「しかし、やはり謝るのは俺の方だ。そもそも、俺のせいで…」
「学祭の準備のこと?」
幸村は頷くと、
「準備は夕方には終わって、わざと遅く帰っていた。…あの映画も、わざとだ。だから、予め買っていたのだ…DVDを」
「え、映画もっ?何で…?」
佐助は、本当に不思議そうに首を傾げる。
そこには、疑う気持ちはもう見えない。
「…○○殿たちだが…」
「ああ、あのバカップルね」
幸村の一つ先輩の二人で、そのラブラブさは、佐助と幸村にも匹敵するほど。
「あんな風だが、すごく睦まじいであろう?…で、政宗殿がな…」
『Ha?一度も!?…Oh〜jesus!そりゃ危険だぜ、幸村。喧嘩したことねぇcoupleなんざ、いつか簡単に別れちまぇ──じゃなくて、所詮まだまだうわべだけの付き合いっつーか、まぁ、「三年目は節目」ってのは有名だし、これを機に俺に……』
「──と。それで…」
「…俺様を怒らせようとしてたってわけ?」
「……」
コクリ、と気まずそうに顔を歪める幸村である。
佐助はというと、先ほどからずっと、片手のひらで口元を覆っていた。
幸村のすぐ身近にいた不穏分子の存在にも、少しも気付けないくらいで、
(…やっばー…)
頭のてっぺんから足の爪先まで、綿菓子か何かになってしまったかのようだ。
どこもかしこも甘くふわふわで、遥か高く飛んで行ってしまえそうな、
(や、せっかく甘いんだから、食べてもらわなきゃ──いやいや、違う)
佐助は頭を振ると、
「で…どうだった?『初ゲンカ』は?」
「もう、これきりで充分だ…」
幸村は苦笑いし、
「する必要などなかったと、一生分、分かり尽くした。…お前の、あの顔を見て」
「(え゙…)ど、どんな顔?」
う、と詰まる幸村だったが、
「喧嘩や…、余計なことを考えずとも、心配したり、不安に思わなくて済むような、──だ」
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