アイドル争奪戦7
(おかしいな…)
先ほどから、同じような通路や階段ばかり通っている気がする。
きちんと付けた印をもとに、入口までの道を、戻っているはずなのだが…
「え…」
幸村は、愕然とした。
──信じられないことに、またあの部屋へ辿り着いてしまっていた。
「あ、幸もう着いてた」
「!慶次殿…」
幸村はホッとしつつも、彼も同じ状況であるのに、不安が落ちる。
「ごめんな?待たせて。入口のとこしっかりやってたら、ちょっと時間食っちまった」
「え?」
慶次はニコッと笑い、
「バッチリ塞いで来たからさ。もう、大丈夫だよ」
………え、………
何を、だろう…と思う幸村だったが、慶次は、何やら楽しそうに近付いてくる。
『バタン』
「!?」
その音に驚き見れば、通路への唯一の入口のドアが閉まっており、幸村は慌てて駆け寄るが、
「慶次殿、大変です!鍵が壊れているようで…!」
「うん、俺がそうしたから」
「は…」
まさか、と幸村は彼を凝視し、
「な、何故?…じょ、冗談は…」
ケータイも通じないのに、と青ざめるが、
「そりゃ、決まってんじゃん。『二人』に、なりたかったからだよ。頼んだろ?お前と二人でって」
「そ、れは…」
聞いたではないですか、と目で訴える幸村。
奇妙な威圧感を出す慶次から逃れ、とにかく部屋を徘徊し、何か活路はないかと探し求めるが、
「…俺が言ったのは、この日だけって意味じゃなくてさ」
「あっ?」
腕を掴まれ、床へ押し倒される幸村。
背中に痛みを感じないと思ったら、そこは、あの絨毯と花の上であった。
…強い花の香りが、幸村の鼻腔を貫く。
「慶次殿、どうして…どうされたので…!?」
初めて、彼を怖いと感じた。
いつものように、笑っているのに、
「『占いみくじ』にな?『長年の思いが遂げられるでしょう』って。姫ちゃんの占い、ホント百発百中だよな」
「慶…」
慶次が、首筋に手を当ててくる。
彼の腕なら、気を失う程度に調節できるだろうが、もし、…
「この下、すげぇ仲が良かった親友同士が、眠ってんだって。一緒に」
「──…」
「って教えてくれた元神父さん、三年前に亡くなっちゃってさ。…もう、ここ完全に忘れられた場所になってんだよね」
つまり、誰も邪魔をする者はいないのだ、…と。
「俺、幸と二人でいるときが一番幸せで、それ以外は全部つまんないんだ。もう、無理やり笑うのも疲れちゃった。お前がいりゃ、それで良い…、他の友達や、トシもまつ姉ちゃんも要らない。
──だから、一緒に眠ってよ」
慶次の指先に、力がこもる。
むせ返るような花の香りに、目眩が起きた。
彼の言葉の、全てが信じられない。
こんなことを、あの慶次が絶対に口にするはずがない。
(だが…)
──幸村は、目を閉じた。
…早く起きなければ
今日は、待ちに待った文化祭なのだから──
(ん…?)
夢から覚醒すると、
「あ、幸!」
「!?」
慶次の心配そうな顔がドアップで現れ、ギョッと目をむくのだが、
「ごめん!ごめんよ、怖がらせて…!まさか、気ぃ失っちゃうとは…っ」
「真田ぁ!」
慶次をぐい、と押しやり、
「すまんかった、冷たくして!本当は、一緒に写真撮りたかったんだが…っ、あのあれ、すごく似合って、」
「フ○ク船長な。もー大変だったんだぜー?お前が消えた後、こちらさん、そりゃあ落ち込んでてよぉ。底無し沼みてぇになっちまって」
官兵衛が幸村に平謝りすると、元親がおかしそうに彼をつついた。
そこには、あの王の格好をした彼の、影も形もない。
(え?………え?)
──夢、ではなかった…?
幸村の頭は、すぐに覚め、
「では、あの…!」
「せーの、」
「「「ごめんなさい!!」」」
慶次の掛け声の後、その場にいた他の面子も一斉に頭を下げた。
…気付いてみると、政宗たちや元就までいるではないか。
何事だろうと幸村は驚くが、元就から事情を聞かされ、ようやく合点がいった。
「すまぬ…。お前のためにと思ったのだが、考えが浅かった…」
「も、もう謝らないで下されっ。元就殿の気持ちは、充分分かっておりまする。怒るわけがござらん」
元就のしおらしい態度(もちろん演技)に、簡単に騙される幸村。
周りは、「……」と、何か言いたげな表情だったが、実行できる勇者はいなかった。
ここは保健室で、後夜祭は既に中盤辺りらしい。
(誰か一人残して、見に行けば良かったのに…)
その一人が幸運の持ち主になるとも知らず、幸村は申し訳なくも温かくなるばかり。
(申し訳なく思うこと自体、間違っているのだが)
「では、徳川殿のあれは…」
「彼らは、うちの学校の先輩でな。協力してくれて──これも、中身はガムだ」
と、家康はタバコの箱を、幸村に手渡す。
…よく見てみれば、パッケージに『タバコではありません』と書いてある。
「でもさ〜、約一名は演技じゃなかったんじゃない?就ちゃんの話によるとさ」
「Ha、お前のことか?きっめぇ台詞、お似合いだったらしーしな」
「聞いたよー?『政宗様は、小六まで柱の木目が怖くて…』」
「Ah!?小十郎の奴…っ」
「え、マジなんだ?適当に言ったのに。うわ、引くわ〜」
噛み付こうとした政宗を元親がなだめ、何とか睨み合いで終わった。
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