アイドル争奪戦6



しかし、そんな幸村をものともせず、佐助は微笑むばかり。


「…い、行こうか」

ぎしぎしと唸りを上げる手足を奮い立たせ、幸村はルートを進めていく。



「これ、気に入った?」
「っ、あぁ…」

一際大きな絵画の前で幸村が立ち止まっていると、佐助がその横に並ぶ。

風景画で、樹々や田畑の緑が素晴らしく、つい見入ってしまっていた。



(落ち着く…)


今日は、朝から色んなことがあったからだろうか?
優しく深い色使いが、幸村の心を凪いでいくようだった。



「俺様も、これが見たかったんだよね」
「!そうなのか?それは良かっ…」

た…、という音は、静寂に溶ける。


…佐助は、絵画に少しも目を向けてなどいない。


「さ、…ぁ、…」

再び幸村の頭が固まり出すと、佐助は辺りを見渡し、


「やっぱ、ないよね」
「…!」

その言葉に、『新手の悪戯だったのか…!』と理解した幸村は、怒りよりも安堵が湧くのが先だった。

ようやく胸を撫で下ろし、佐助を見ると、


「分かってたんだけどね、それを確かめたくもあってさ。──やっぱり、これ以上のものなんて、あるわけがなかった…」

噛み締めるように、熱っぽく語る口調。


「…?」と、話の流れが掴めない幸村の頬に、佐助はそっと手で触れ、


「ここにあるもの全てがまとめてかかっても、…いや、世界中のどんな有名な風景や夜景、星や月が束になったって、絶対に敵わない。


──何よりも綺麗だよ、…旦那」









「…ああ、もう時間か…」

佐助は壁の時計を窺い、切なげに溜め息をもらす。


「神様も無情だよね。旦那が『離れたくない』って顔してんのに、気が利かないんだから」

「……ッッ」

ぶんぶんと首を振る幸村だったが、完全に陶酔状態の彼には、何の歯止めにもならない。


「心配しないで?後夜祭では、もっと沢山聞かせてあげる。…どうせキャンドルの灯も、旦那の前じゃ霞むばかりだろうからね」




(1×1=1、1×2=2、1×3=3、1×4=4、1×5=5………)



『悪霊退散』と、よく漫画やアニメで使われる呪文が分からなかったので、とにかく思い付くまま、頭をそれから切り離そうとする幸村。

七の段で、やっと一人きりになっていることに気付き、訝しげに見る周りの目から逃げるように、会場を後にした…。












*最終R 慶次×???






「幸〜!なぁ、これ見て!」
「慶次殿…」

「姫ちゃんとこの『占いみくじ』!俺、大吉でさー…──幸?」

ぎゅう、と自分の制服を掴み俯く幸村に、慶次は戸惑うが、


「そんなに怖かった?お化け屋敷。顔、赤いし…」
「……」

何も言えない幸村を、しばらく心配そうに見た後で「よし!」と手を叩く。


「慶次殿?」
「良いとこ連れてったげる!こないだ発見したんだ。他の奴らにゃ、内緒だぜ?」

今度は幸村が戸惑う番だったが、慶次は彼の手を引き、校舎の外へと連れ出した。



「ここなんだけどさ」
「(教会…?)」

この学園の広さは知ってはいたが、周囲の森林の中に、こんな建物があったなんて。

もう長く使われていないようで、ボロボロであったが。


「おぉ〜、立派ですなぁ!」

中へ入ると、幸村の感嘆の声が響き渡った。

奥の壁に付いたステンドグラスは壮麗で、森の中の弱い陽光を受けながら、真ん中の床にかすかな色を落としている。


「こっちこっち。これが、本当に見せたかった方」
「え?」

慶次は、脇の小部屋へ案内すると、本棚を動かし、自慢するようそれを指し示す。

床板が外れ、中から蓋状の扉が顔を覗かせていた。


「隠し通路…!?」
「な、すっげーだろ?」

「……っ!」

言われるまでもなく、ワクワクとした表情になる幸村。

「探検してみよーぜ!」と、同じ顔をする慶次の後に、迷うことなく続いた。











(…まさか、こんなに広かったなんて)


幸村は、ゴクリと辺りを見渡す。


上の教会の敷地の、倍はあるのではないだろうか。…いや、それ以上かも知れない。

広いというよりは、まるで迷路のように通路や階段が入り組み、明かりといえば、慶次の財布にアクセサリーとして付いていた、小さなマグライトのみ。


「…慶次殿、そろそろ戻りませぬか?迷ったら…」
「大丈夫だって、ちゃんとマークして来てるしさ」
「ですが…、…今度、改めて参りませぬか?時間があるときに、ちゃんと、大きな懐中電灯を持って…」
「幸でも、暗いとこ苦手?意外だな〜」

慶次は笑いながら、


「もうちょっとだけ。俺、大吉引いたしさ。良い物発見できる予感すんだよ」
「はぁ…」

「──あ、ほら!」
「(えっ…!)」

幸村も、目を丸くする。


ずっと通路が続いていたのに、突然広い部屋に出た。

しかも、天井から白い光が射し、床を照らしている。赤い絨毯が敷かれているようだが、


「良い匂い…」
「…しかし…」

この部屋だけはとても綺麗で、この光も──つまり、誰かが使用しているのだということ。

幸村の頭には、『不法侵入』の言葉がすぐに浮かび、


「慶次殿、早く出ましょう!見付かったら、」
「ちょ待って、せっかく来たんだし」

慶次は部屋の中央へ近寄ると、

「良い匂いと思ったら、花だよこれ」
「え…?」

彼の招きに従うと、なるほど、絨毯の上には赤い花が大量に散らばっている。

その下に、小さなプレートがあり、



(…もしや、墓…?)





「──んじゃ、帰りは競争な?はいっ」

唐突に慶次は幸村にマグライトを渡すと、自分はケータイのカメラのライトを使い、

「お先〜!」

と、部屋から出ていく。


「なっ!」と、幸村は間髪入れずに立ち上がり、同じくそこから駆け出した。

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